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心と心が通い合うその瞬間   出崎統の『ベルサイユのばら』5 [シリーズで考える深い考察]

さて。

今回は最大のヤマ場になりますかね。

前回で私はアンドレはオスカルにこれまで「愛している」なんて実際には一度しか言ったことがない、

といいましたが、なんだかしょっちゅうしょっちゅう耳にしているような気がする…。

ハッ!よく考えてみればエンディングのときに毎回毎回叫んでるよなぁ…。アンドレ。

あれはアニばらの最大の失敗の演出だと思うね。はっきりいって聞いているこっちのほうが

恥ずかしくていたたまれなくなる気がするンだもん!(爆)

さて、いってみよう~!

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革命の引き金

このフランス革命も、突然、市民が暴れだして国王を処刑したわけじゃない。

それなりに双方歩み寄ろうと努力して、どこかで妥協点をみつけ

平和裏のうちに解決できればそれにこしたことはない。

オスカルは長年王妃様にお仕えしてきて、王妃様を心から敬愛しているんです。

またその一方で、アンドレはもちろんのこと、アランやベルナールみたいな平民の気持ちだって

よくわかる。

だから、今はフランス国民、貴族も平民も一丸となってこの国家の危機を乗り切れたら、

と願っているんです。

それは、オスカルだけじゃなくて、他の心ある人たちもそう願っていたに違いないのです。

人殺しというのは、何かをする最終手段ですから。

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財務長官ネッケルは、フランスの国家財政が破たんしていることを

国民に宣言してしまいました。

そんな大事なことを黙っていても、いい方向に進んでいかないからです。

つまり、ネッケルも一部の心ある貴族も、(オスカルもその中にはいっているけれど)

流血を避けるために、国政を改革しなければならない、と思っていました。

これまでは国王の承認を受けない、一切の議決は無効とされてきました。

ですから、これからは王室に国政を全部任せるのではなく、

国民議会を作って、そこで国民に選ばれた議員たちが討論しあって、

フランスの政治を担っていくしかないと思っていたのです

ネッケルは流血を避けるため、国民議会の承認を国王に求めました。

要するに、フランスの政治形態を立憲君主制にするしかない、と進言したのです。

つまりイギリスのような政治形態でしょうか。

つまり国王の権力はある程度、制限される政治形態です。

「君臨すれども統治せず」ですね。

 けれども、国王を始め、多くの貴族たちはわりに楽観的で

国民がどんなに疲弊しているかを的確につかんでいなかったのです。

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そんな中、オスカルはヴェルサイユ宮殿に伺候します。

それはこの間の本来なら許されるはずがない軍規違反を犯し、

あわや身分剥奪、国外追放処分にされるところだったのを

王妃に免じて、無罪放免になったことに対するお礼を言うためです。

王妃の温情で一切をおとがめなし、となったオスカルは王妃に感謝の意を伝えます。

「ありがとうございます。これもすべて王妃さまのお蔭でございます」

アントワネットはオスカルは優しいから、たぶん哀れな平民たちに同情したのでしょう、

ぐらいに思っている。

「そんなこと、当たり前のことです。私たち、お友達でしょう?それ20年も前からの…」

あの晴れやかなお輿入れの日からそんなに年月が経ってしまったんだと

改めて二人は感じ入るのです。

アントワネットは思います。

あの時は、大勢の民衆にあんなにも愛されてこの国に迎えられた。

それなのに、今はもう…。

まるで夢のようです。

アントワネットはオスカルにこう語りかけます。

「こんな世の中ですもの。お互い嫌な思いをしますね」

オスカルとアントワネットの目が潤む。しかしアントワネットはこう続けるのです。

「でも、もうすぐこの騒ぎは収まります。

今フランス中でパリとベルサイユを目指して続々と国家の軍隊が進軍しています。

南フランスの騎兵連隊、

そしてシャラントからロワイヤル・クラバット連隊、

さらにイシーからサリースサマート連隊が。

全部で10万人の軍隊です。これだけ投入すれば、きっと…」

「王妃様、それは?」

「もちろん、暴徒に対して、武力鎮圧するためです。

王室の尊厳を傷つけるものは何人たりとも赦してはいけないのです、オスカル」

オスカルはアントワネットの言葉を聞いて、凍り付く思いがしました。

しかし、それに反論することもなく、黙って引き下がるのです。

この間、ふたりの会話に流れるのは、ラモーの『優しい訴え』

う~~ん、すばらしい選曲ですね。

どこか物憂いクラブサンの音色は

やはりロココのものなのです。

アントワネットは過ぎ去りゆく時代に取り残された人間として

象徴されているのですね。

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というのも、オスカルはかなり病気が悪化していて

いつも熱があって、体がだるく、そして常に咳き込んでは喀血していたのです。

そんなある日、夜間の市街巡回の時間が来て、アンドレがオスカルを呼びに行くと

オスカルが苦しそうに咳き込んでいました。

兵舎や他の隊員がいるところでは、常に他人行儀にしているふたりですが、

あまりに苦しそうにしているオスカルを見て、アンドレはつい、駆け寄って尋ねます。

「オスカル、大丈夫なのか?」

「いや、夏風邪が長引いていて、ちょっと熱がある。

申しわけないが、今夜はアランに巡回の指揮をとるよう伝えてくれないか?」

オスカルは適当にごまかそうとします。

ですが、アンドレはそんなことぐらいでは決して欺かれなかったのです。

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オスカルは、自分の遠くない未来におこる死を感じていました。

これまでは絶対に嫌がって肖像画などを描かせなかったのですが、

画家をよこして肖像画を描かせたのです。

たぶんそれは、自分が先だった後の家族やばあやや、

もちろんアンドレへの心のよすがとしての形見ですね。

雇われた画家は、オスカルの真意を見抜いていました。

「あの顔色は…、相当お悪いようだ。絵を急いで仕上げなくては」

画家が帰ったあと、へたばって椅子にぐったり横たわっているオスカル。

ですが、アンドレの足音を聞くと、さっと立ち上がって何事もないような顔を取り繕います。

この二人はお互いに相手のことを死ぬほど心配するわりには、

自分のことを隠して、平気で嘘をつく。

アンドレはオスカルに訊きます。

「オスカル…。何か俺に隠していることがあるだろう?」

「いや、別に何も?」

じっとアンドレはオスカルの目をのぞき込むように見つめます。

「そうか? ただ俺は知っておきたいんだ。お前のことなら何でも」

う~~ん、こういうセリフどうなんでしょうかね。

私がオスカルだったら、ちょっと強引で嫌かもね。

束縛が強すぎてちょっとストーカーっぽいかなぁ。

だけど、まぁ、それほどオスカルの状態が尋常じゃなかったってことなんでしょう。

さて、七月に入って、パリには10万の軍隊が入り込み、

どこもかしかも兵隊であふれています。

パリとベルサイユを結ぶ道は軍隊によって分断され、

市民の集会は中止され、夜間の出歩きなどを制限され、

さながらパリは戒厳令が敷かれたような状態となっています。

さらに悪いことに、一挙にパリに10万の軍隊が押し寄せたため、

パリの街は食料不足になり、人々は飢えていました。

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ここにきて、さらにネッケルは国王に国民議会を早急に開くことを強く懇願しました。

しかし、貴族側は国王の尊厳ことが第一だとして、

ネッケルの進言を退け、あまつさえ、彼を財務長官の職を罷免したのです。

ここに市民の怒りは一気に高まり、パリのあちこちで暴動が起きるのです。

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ベルナールたち、平民の代表はこう叫んで民衆を鼓舞します。

「これは愛国者に対する弾圧だ!

国王は軍隊を派遣して俺たちを皆殺しにしようとしている!

それならば、俺たちも立ち上がろう!

やられっぱなしになっていてはいけない。

祖国の子らよ!誇りをもって立ち上がろう!

武器をもって立ち上がるときがきたのだ!」

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そうです。今まで黙って蹂躙されるだけ蹂躙されてきた

貧しいものたち。

民衆は自分たちのために立ち上がらなければならないのです。

それを複雑な思いで見つめているオスカル。

彼女は最後の懇願をしにアントワネットのもとを訪ねます。

オスカルは血の涙を流すように王妃に説得します。

「アントワネット様、なにとぞ、なにとぞ軍隊にパリ市街からの撤退をお出しください!

どうあろうと王室と国民が殺し合うことになってはなりません」

凍り付いた空気が二人の間を流れていく…。

昔はあんなにもお互いを分かり合えた仲だったのに。

オスカルは何度も何度もこれまで自分の身を挺して私を守り、仕えてきてくれた。けれど…。

今、同じ場所にいながら、こころはこんなにも遠く離れてしまった。

「オスカル…。もしそうなったら、あなた、私を守ってくださいますか?」

「……私はもはや近衛を辞めた身でございます……」

ふたりはぽろぽろと涙を流す。

「軍をお引きください!王后陛下!…王妃様。

自分の国の民に銃を向けてはなりません」

「それは…できません。オスカル。」

もはやこれまで、とオスカルは諦め、涙を流しながら王妃に一礼して立ち去る。

オスカルの背中越しにアントワネットは声をかける。

「なぜ涙が…。まるでもうこれっきり会えないみたいに。オスカル!」

アニメのオスカルもアントワネットも壮絶なまでに美しい。

見ていて痛いほど、悲しいふたりの気持ちが伝わってきます。

しかし二人はこれっきり会えないことを心の中ではわかっていました。

そしてふたりとも呟くのです。「ごきげんよう、Au revoir (オルヴォワール)」と。

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さて、七月のある日、オスカルは主治医のラソンヌを訪問する。

オスカルはラソンヌにこう告げる。

「覚悟はできています、先生。真実を述べてください。自分のことははっきりと知っておきたい」

ラソンヌは空とぼけてこう答える。

「風邪が長引いておあれるようですが、別に心配はありません」

「血を吐きました…。これまで何度も…。

胸をやられているのはわかっています。

私が知りたいのは、あとどれほど生きられるのかということです」

ラソンヌは白を切りとおすことができないことが分かって観念する。

「結核は治らん病気ではない。

いい空気とおたやかな環境で自然と治った例は私はいくつも知っていますよ」

ラソンヌは励ますようにオスカルに言う。

「先生、私とて死にたくはありません。

しかし、いずれその日が来るのなら、精いっぱいに生きたいのです。

自由に、そしてあるがままに」

自由に、そしてあるがままとは今のオスカルにとってどういうことを指しているのでしょうか。

意味深長です。

ラソンヌは諦めたように言います。

「今すぐ、軍をお辞めになり、静かなご領地へお帰りください。何も考えず、仕事もなさらず、

ただひたすら日の光を浴びて神のご加護をお待ちください。

このままでは長くともあと半年のお命でございます」

オスカルはラソンヌの言葉を冷静に受け取りました。

ところがラソンヌは意外なことをオスカルにいいます。

「オスカル様、アンドレの具合はいかがでしょうか?

このところ私を訪ねて来ませんので、心配なのです。」

オスカルはびくりとしてラソンヌを振り返った。

「アンドレ?アンドレの具合?」

「え? アンドレはご主人のあなたに話していなかったのですか?」

みるみるオスカルの顔色が変わった。

「どういうことです? 話してください! 先生!」

「アンドレ・グランディエが失明するのは時間の問題です!」

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さて、パリは殺気だっていました。

町中に武装した市民があふれています。

フランス衛兵隊のオスカルが指揮するB中隊とはまた別の

A中隊に出動命令がでました。

そのため、今まで市内巡回していたB中隊は待機せよとのこと。

ダグー大佐は昨年妻を結核で亡くしていたので、

 同じ症状を見せるオスカルの具合を密かに心配していました。

大佐はオスカルに出動命令が出る間は自宅で身体を休めることを勧めます。

オスカルも本当に疲れていたので、家に帰ることにしたのです。

そのとき、オスカルの脳裏にひらめいたことがありました。

アンドレを司令官室へ呼びました。

そのとき、オスカルはいつも着席している椅子の傍の壁に寄り添って立っていました。

ですが、入室したアンドレはオスカルが椅子に着席していないことも、

壁際に立っていることもわからなかったのです。

本当にアンドレがほとんど見えていないことにオスカルは愕然となりました。

「アンドレ…。お前にはもう私すら見えないのか…」

 ですが、オスカルは兵舎に帰ろうとするアンドレを偶然を装って、

入口で待ち受け、そしてこう告げます。

「今日は勤務はない…。命令待ちだ。一緒に屋敷に帰ろう」

しかし、オスカルの胸中を知らないアンドレは、珍しいことをいうものだな、と思いながらも

やはり、あまり一緒にいるところを人には見られたくないので断ります。

「命令まちならば、俺はみんなと一緒にここに」

いつもなら、ことさらに体が接触することを頑なに拒んでいたのに、

あろうことかオスカルは、アンドレの右手を両手で包み込み、

アンドレの顔をのぞき込むように見上げて、かすかに媚を含んだ声でそっとこういいます。

「供をして欲しい、たまには。屋敷までの道はもうひとりでは物騒だからな」

どうしたんだろう?最近こんな風にオスカルが俺に甘えてきたことはなかったのに。

敏感なアンドレは、オスカルの微妙な心の揺れを推し量ろうとします。

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屋敷へ帰ったとき、画家が以前から描いていた例の肖像画が仕上がったので、

お披露目にきていました。

その絵は、オスカルを軍神マルスの姿に扮装させて馬上でポーズをとっていました。

出来栄えのすばらしさにみんなため息をついています。

ジャルジェ将軍などは非常に喜んでこういいます。

「よくできている!まるでそこにオスカルがもうひとりいるようだ」

ですが、アンドレはひとり戸口に佇んで、入ってこようとしません。

遠くからアンドレを見つめるオスカル。

わずかな視力でオスカルを見ているアンドレ。

ふたりの視線と視線は静かに絡まり合っていきます。

お互いに相手を気遣いながら…。

(この二人はね、もう視線で抱き合っているよね。

視線で言葉にならない感情を会話してるの。)

アンドレはもはや、絵の中に描かれているオスカルの輪郭や形など

はっきり見えないのです。

もうわずかに不明瞭にぼんやりと色がわかるくらい。

辛そうに絵をひたすら見入るアンドレ。

(この静止画をお描きになったのは、姫野美智さんなんでしょうか?

 作品中の一連の静止画は見るに堪えないです。動画がすばらしすぎるので

 よけいインパクトがひどいです。)

オスカルはそういうアンドレにどう声をてかけていいのかわかりません。

でもアンドレはこの無言の静寂に耐えかねてでたらめな感想を言ってしまいます。

「美しい、たとえようもなく。輝くお前の顔がこの世の光をすべてその身に集めているかのようだ…。

特にお前のブロンドの髪に置かれた月桂樹の冠が鮮やかで…」

(こういうすぐバレてしまう嘘っぱちを言ってしまうアンドレってどうなのかな、

と私はイマイチ頭をひねるのですが…)

それを聞いているオスカルはアンドレが可哀そうで可哀そうで涙があふれて止まりません。

心の中でこうつぶやいていました。

「アンドレ、無理をしなくてよい。お前の目が見えないのはわかっている。

その絵の私は月桂樹の冠などかぶってはいない…」

しかし、どうしたことか、アンドレは次々と見えてないことが丸わかり発言をするのです。

「白い薔薇が、ひとつ、ふたつ…。いや、野原一面に…。どこの森だろう?

そうか! いつか行ったアラスの泉あたりかな? そうだよな、オスカル?」

アンドレは自分の心に描いたイメージを言っていることにオスカルは気が付きました。

ああ、アンドレはそんな風に私のことを見ているんだと。

オスカルもアンドレに合わせます。

「そうだよ、アンドレ。画家のアルマンはわざわざアラスまで行ってスケッチをしてきたと

言っていた…。」

「すばらしい絵だ。お前の優しさ、気高さ、そして喜びまでもすべてが表現されている…。

忘れない、俺は。この絵に描かれたお前の美しさを。決して忘れないよ」

実は西洋人の中でも金髪というのはかなり珍しいのです。

さらにいいますとふつうのフランス人はガリア人の末裔なので、

めったにブロンドの人はいません。

ブロンドの髪を持っているだけで称賛の的です。

私たちがよく見かけるブロンドの外人さんはたいていブロンドに染めているのです。

ですから、そういうオスカルの天然の金髪てすごく珍しいんですよね。

ブロンドの髪ってものすごく細いのだけど、それだけに髪の本数がふつうの人の何倍もあるのだそうです。

かてて加えて、オスカルみたいにふんわり天然のウェーブがかかっていたりする人は本当に少ない。

たぶん、オスカルは領地がアラスだったりするので、ノルマン貴族の血が濃く出たのか、

あるいは近い先祖に北欧出身の人がいたんでしょう。だから長身でもあるわけです。

アンドレはそんなオスカルの美貌にのみ惚れたわけではく、

それ以上に オスカルのやさしさ、気高さを愛していました。

それこそが本当の彼女の美質であり、オスカルがオスカル足らしめる理由だからです。

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そうこうしているうちに、夕暮れが近づいてきました。

そこへ、フランス衛兵隊のダグー大佐の遣いとして、アランたち衛兵隊員三人が

オスカルの屋敷へ早馬を駆けてやってきます。

いよいよ出動命令が出されました!

オスカルはアランに言います。

「出たか!ついに」

「そういうことであります」

アランも妙に神妙です。

「先に隊に戻ってくれ。すぐに後を追う」

発動の命令にオスカルの軍人スイッチが入ります。

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早速、アンドレが馬舎で馬に馬具をつけて出発の用意をしていると、

そこへジャルジェ将軍が現れました。

緊張するアンドレ。ジャルジェ将軍には、オスカルと自分との間に

ただの主従関係ではない、愛人関係にあると疑われているのです。

それは半分当たっていて、半分外れています。

アンドレは、いまやオスカルが自分を愛してくれているのはわかっていました。

しかし、いつぞやのように男女の関係を強いたりすることは決してすまいと

心に決めていました。オスカルが幸せなら、そしてそれを彼女が望むなら

このままの関係で満足するつもりだったのです。

ジャルジェ将軍はアンドレに言います。

「アンドレ、明日出撃するそうだな。私も明日か明後日か、いずれ出撃する。

万にひとつ、お前とは今日限りということもありうる」

「はい」

アンドレは将軍の話の展開が自分の予想していたものと違うことに少し驚きました。

「ひとことだけ、私の気持ちを伝えておきたい。

もし、お前が貴族ならば、私は間違いなくお前とオスカルの結婚を許していたろう。

いや、心からの祝福を送っていたはずだ。

死ぬなよ、アンドレ。必ず戻ってこい!」

なんということ。思ってもいなかった言葉にアンドレの胸は熱くなりました。

まるで実の父親が息子に語り掛けているかのようです。

「もちろんです。旦那様」

ジャルジェ将軍はあれからたぶん、いろんなことを考えたでしょう。

幼少のとき、自分はオスカルがあまりに優れた子供だったから

本当に息子なんだと信じてしまっていた。だから、息子の相手をさせるために

やはり容貌も優れ聡明なアンドレを従者に選んだのだ。

あのとき、自分が血迷って娘の従者に異性のアンドレを選んでしまったことが

そもそも常識はずれで、今日の原因をつくったものとだったのだと。

娘にすぐれた若者の従者をつけたなら、今日のことも簡単に予想がつくはずだった。

オスカルの性格を考えれば、アンドレは好ましく映るはずだから。

お互いに相思相愛になる可能性は十分にあったのだと。

パパはオスカルがアンドレを愛して、通じていたとしても

それは不問にするつもりなんでしょう。

あまりにも二人が不憫だから。

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日も沈みかけた頃、オスカルとアンドレの二人は早足で衛兵隊本部へと

向かっていました。しかしそこで、アンバリッド(廃兵院)に向かう暴徒と

鉢合わせしてしまうのです。

暴徒たちはふたりを王宮の兵隊であると知り、武器を奪い取ろうと襲い掛かってきました。

大勢でかかられては命がありません。

ふたりはそばを流れている川に飛び込み、対岸へ渡ろうとしました。

ところが、暴徒たちは持っている棍棒や農具などをふたりめがけて投げつけて来るのです。

アンドレが運悪く背後から投げられた丸太が頭に当たり、失神してしまいます。

アンドレもたずなはしっかりと握っていたとはいえ、意識がなくなって

馬から落ちそうになっています。

オスカルは必死になってアンドレの馬を引き寄せ、対岸を駆け上り、森の中へ逃げ込みました。

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いろいろと迂回路を探すものの、あちこちで暴徒たちが集まって

これから来るだろう闘いに向けてお互いを鼓舞しています。

オスカルもアンドレもびしょ濡れで、あまつさえ、アンドレはアタマを切って、血を流していました。

「大丈夫か、アンドレ?頭の傷は?」

「ああ、どうということはない」

アンドレは心配するオスカルを気遣い、気丈に答えます。

オスカルは思い切っていいます。

「よくも今まで私を騙し続けていたな」

「え?」

「右目のことだ。ラソンヌ先生に聞いた。もうほとんど見えないんだろ?」

アンドレは沈黙します。

オスカルはこんなアンドレを連れていくことは不可能だ、と思い直します。

「やはりもう一度、屋敷に戻ろう。明日のパリ出動にお前を連れて

行くわけには行かない。お前をばあやに返し、私だけ宿舎に戻る」

オスカルはさらにアンドレに近づいて懇願しました。

「そうしてくれ、アンドレ。お前に万一のことがあってはいけない」

ですが、アンドレはほとんど見えなくなった瞳を潤ませてオスカルをじっと見つめていいます。

「俺は行くよ、オスカル。今までもそうだったが、これからもそうだ。

俺はいつもお前と共にある…」

それを聞いたオスカルの瞳はみるみる涙が溢れだします。

これって、クリスチャンじゃない人はなじみがないだろうけど、

ミサのとき、必ず「平和の挨拶」っていうのがあって、

司祭が会衆に「主はあなたと共に」といい、

会衆がみんなで「司祭と共に」と賛同する箇所があるのです。

これは旧約聖書にある「神は常にあなたと供にある」という箇所も連想させるのです。

人は知ることが出来ないし、見ることが出来ないけれど、

いつもいつも神によって愛され、神によって護られているという意味です。

アンドレはこれまで、衛兵隊に入隊するときに「自分は大工のせがれだ」と偽っていっていたり、

ベルナールに左目をつぶされたときも、いきり立つオスカルに「俺は彼を赦す」いっていたりして、

どこかキリストを連想させるところがあったのです。

なんでかな?と思っていたのですがここにきて、それらの伏線の意味が分かりました。

これにピンと来れば、オスカルの涙が分かります。

これは、アンドレがオスカルに生涯無償の愛を捧げるよ、と言ったのです。

それがどんなに自分にとってつらい選択だとしても、君のたましいに寄り添うよ、と。

そのとたん、オスカルの中の今まで自分の心を覆っていた、女であることを否定していた

固い殻が融けてしまったのです。

アンドレの深い愛によって。

ああ、ここでもアンドレは安易に「愛している」なんて言っていませんね。

でも、それ以上に深い言葉です。

オスカルはアンドレの言葉で、自分にかけられた呪縛を解かれ、

本来あるべきはずの自分に戻っているのです。

ポロポロ泣きながらオスカルはアンドレに尋ねます。

「アンドレ! 私はかってフェルゼンを愛した。お前に愛されているのを知りながらも

フェルゼンを愛した…。そんな私でも愛してくれるのか?」

アンドレは静かに微笑してこういいます。

「すべてを。いのちある限り」

オスカルはたまらなくなってアンドレの胸に縋りつき、

その胸に顔を押し当てて、今まで面と向かっては言えなかった言葉をいうのです。

「あ、アンドレ。アンドレ! 愛しています、私も。心から」

アンドレは自分の胸にあてられたオスカルの手をそっと握っていいます。

「わかっていたよ、そんなこと。もう何年も前から。いや、この世に生を受けるずっと前から」

そうやって、オスカルの身体をアンドレの腕が包み込みそして、ふたりは森の中で愛を交わすのです。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

ロマンティックな箇所なんですが、

これには、もうひとつ、製作者側の意図があるように思いますね。

つまり、彼らはもう実はヘトヘトなんですよ。

オスカルは身体が悪いのに、三部会が荒れているときずっと

雨の中で何時間も濡れて立っていたりして、

短期間で病状がものすごく悪化させています。

アンドレだって、目が悪くなって、そのせいで怪我をしています。

しかも、ふたりとも、びしょ濡れだしね。

もちろん、彼らはもともとお互い好きだったんだけど、それをいうチャンスがなかったから

今、この場所で抱き合ったんでしょうけど、

これって、なんかある意味、愛の抱擁とは違う側面があると思う。

セックスすることによって、自分たちのパワーを補給したというか、

もっと人間の根源的な本能に突き動かされているように思える。

そう、もうふたりとも体力・気力の限界で、理性でもっとお互い静かに

長時間オハナシなんかしていられる状況じゃないんです。

もう野獣みたいに猛々しく吠えながら抱き合わってでもいないと

神経がおかしくなりそうなんですよ、たぶん。

もちろん、そこに愛はあるだろうけど。

いや、ふたりは今まで禁欲的だっただけ、余計に激しく抱き合ったような気がする。

どういうんでしょうか。わたしの好きな坂東真砂子的な、生への執着みたいなものを

呼び覚ますために、抱き合っているような気さえします。

途中、オスカルの横顔が描かれているんだけど、

官能に酔っているというわけでもなく、

女っぽい嬌態を作っているわけでもなく、

もちろん原作のように涙をながしているわけでもなく、

妙に冴え冴えとした表情でほんの少し微笑しながら、空を見つめているんですよ。

ものすごく満足そうな感じで。

抱き合って絶頂に達することは、自己破壊です。

なぜなら、それは必ず二人で行うものであって、エクスタシーに登りつめるその瞬間の痴態を

見つめられていても構わないぐらい自分を拡大して解放しなければならないものだから。

でも、それは誰でもいい訳ではなくて、本当に愛する人とだけ。

その相手を信頼していなければ決して達することができないもの。

恥ずかしいからとか、それを相手に見られるのがいや、と言っていたら、絶対に登りつめられない。

だけど、そういう羞恥心や理性を吹っ飛ばし、

一度自分の自我を破壊することによって

また、新たな自分を再創造させる力がセックスにはある。

この二人は心がつながっているから、容易にそういう状態になれたでしょう。

それゆえの満足感のような気がする。美しいオスカル。

だからこの時、オスカルは無理やり親に押し付けられてゆがませてしまった

本来の自分の中のアニマとアニムスを統合できたんだと思う。

そしてモノローグでこうつぶやくんですよね。

「アンドレ・グランディエ。あなたがいれば私も生きていける。いえ、生きていきたい」

す、すごいね。もう完全に女じゃん。

「いや」じゃなくて「いえ」に言葉変わっちゃてるもんね。すでに。

お前呼ばわりしなくなったし。

オスカルはこの時、たぶん、この出撃が終わったら、

軍隊を辞めて、アンドレと一緒にアラスに行って療養に専念しようと思ったんでしょう。

なぜなら、少しでも長くアンドレと一緒に生きていきたいから。

自分が女として生きることに意義が見いだせたから。

そして失明する彼のかわりに自分が彼の目になるつもりでいただろうから。

なんだか、少女漫画という枠を超えた深い洞察がこの話にはあるような気がします。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

その後のシーンは馬を走らせて、連隊本部へ馬を走らせる二人のツーショット。

オスカルもアンドレも抱擁からパワーをもらって、力強くなっている。

しかもオスカルの表情は、さっきまでの恐らく激かった抱擁を全く感じさせない、

吹っ切れたような、何もかも拭い去った表情をしている。

それがかえってふたりの愛の濃さを感じる。

そしてわずかながらアンドレが先に馬を走らせている。

今までは常にイニシアティブをとるのはオスカルのほうだったのにね。

彼女はいまや、夫になったアンドレへ無意識にイニシアティブを譲っている。

もうオスカルは貴族の身分を捨てただろうし、今までのように男の振りをした女でもない。

ただ、ひとりの女性で、軍隊のエキスパートであるというだけ。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

すごいな~。野外でエッチ。(笑)

でも原作はね~。あのシーンは子供の頃読んだ時ですら、「これはないわ!」と思いました。

だってさ、男以上に男らしいオスカル様が「こわい…」ですよ。

え~、この歳で、「こわい」はないだろうと。すんごいカマトトと思いましたもん。

ただ、もう一度原作をよくよく読むと、オスカルの「こわい」って言っている意味がわかる気がする。

だって、アンドレ怖いんだもん、マジで。(笑)

まさに狼に食べられる羊、まんまじゃん!

 やはり、アニメは深い。「愛している」の連発もないし。

変なポエムもない。

非常に説得力があるし、力強い脚本だと思いました。

結ばれた晩は河の周りにはたくさんの蛍が飛び交って幻想的な演出になっています。

ただ、これは単なる耽美的な効果というよりも、

今、愛し合っている男女と河の周りに飛び交う蛍は

「死との親和性」で繋がっていることを暗示しているように思えます。

ふたりは知らないけれど、その翌日にアンドレは死ぬんです。オスカルもその翌々日には死ぬ。

蛍もカゲロウのように儚い命。

彼らはすぐに死ぬ運命だけど、だからといって恐れず、

今ある命の限りを尽くして美しい光を放っているんですね。

何度見ても泣けるわ。


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hihimimi

お返事ありがとうございました!こちらの記事の感想だったのでこちらに書きます。

ヨーロッパの芸術に接してると、根底にキリスト教的考え方があって、クリスチャンじゃない私にとっては大きな壁。
日本人作家が作った物語にさえ、そのニュアンスが散りばめてあるんだなぁ…、奥が深いなぁ…と思ってます。その深みを味わう、きっかけを下さってありがとうございました!!

オスカル様の「こわい…」は、なんだろう。なんか未知の感情、大波来たー、やばっちょっと待ったーって感じ??

私、絵が好きなので、ブログの絵にも惹かれてしまいます。
サージェント、私も好きです。実物まとまって見る機会がないのが残念。モロー!水彩大好き。
ベルばら繋がりで、苦手だったロココ絵画も調べてみようかな、という気持ちです。では!
by hihimimi (2016-07-04 10:16) 

sadafusa

hihimimさま

再びコメントありがとうございます!!
キリスト教関係のコトってやっぱり難しいですよね。
フランスは旧体制のとき、国民そろってみんなカトリック信仰がとても篤く、当然ベルばらの登場人物もそうですね。

でも、あの物語はなんていうんでしょうかねぇ、18世紀末の主に貴族社会を描いているんですけど、雰囲気っていうのかな、登場人物の考え方とか風俗なんて、どう考えてもナポレオン以降のような気がして…。

それより、これを読んでいるとロココの時代というより、70年代ファッションそのものなんで、ついつい野口五郎の「きみが美しすぎて」を思い出してしまいます。というのもコスチュームがオスカルそっくりだったんですよ!! 笑 70年代ってドラマティックな時代だったんだな、と振り返って思います。

でも、十何年ぶりかで読み返してみてやっぱりパワーあるなぁ、と感心してしまいます。


by sadafusa (2016-07-04 22:21) 

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