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薔薇は美しく散る  出崎統の『ベルサイユのばら』7 [シリーズで考える深い考察]

さて、たぶんこれで最後です。…長かった。

最初は本当に短い感想文だけをかくつもりだったのです。

ですが、この話のあらすじをいざ説明しようとすると、とても難しくて

説明できなかったんです。

今回 これらの一群の記事を書くために原作とアニメの後半からを死ぬほど読んだり見たりしました。

それもメインのストーリーじゃないところばっかり。

そしてやっと、うっすらと「なぜ革命が起きたのか」「なぜバスティーユなのか」が

分かったような気がします。

あと、非常に難しいな、と思ったのは軍隊のこと。

軍隊のヒエラルキーは難しい。

オスカルはフランス衛兵隊に転属(あるいは左遷ともいう)されたとき、

役職は准将です。

准将は、役割としてはあんまり大佐と変わりがないようです。

オスカルは近衛隊にいるとき、昇進して大佐、連隊長を務めています。

大佐っていうのは、痩せても枯れても一国一城の主。

軍人だったら、誰もが一度はやってみたいおいしいポジションだそうですよ。

しかも、近衛隊で大佐から一階級昇進して准将です。

准将とはこれから、将軍になるための準備期間の役職です。

ですので、本来なら、「ジャルジェ准将閣下」と呼ばなければならないそうです。

漫画は「閣下」とは呼ばれてませんでしたが、

わりあい、そこらへんの年功序列はきっちり描かれていましたけど…。

准将は、もはや参謀室にいて、直接兵隊の指揮はとりません。

部屋にこもって、チェスのように軍略を練っているような立場です。

確かにあんまり面白くないかも…。

ですので、ダイレクトに下々の兵隊とは繋がれません。

しかしアニメでは、フランス衛兵隊の中隊長。

本来なら中隊長は大尉ぐらいがやる役職なのですね。

よく考えれば、すんごい降格処分のような気が。

でも、『戦争と平和』のボルコンスキー公爵はクトゥーゾフ将軍の副官なのに、

中隊を率いて、アウステリッツ三帝会戦のときに大けがをしていたりするし…。

あれもよくわからない話です。

ま、どーでもいい話です。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

アンドレが撃たれた。

愛する人の名前を絶叫するオスカル。

アランが瀕死のアンドレを抱えて馬にのり、オスカルが先陣を切ります。

もう、今のオスカルにはアンドレを助けるため、一刻も早く、ベルナールがいるチュイルリー広場へ

戻ることしか頭にありません。

「ひるむな! 中央を突破せよ!」

オスカルはもう、怖いものなんかありません。

「道を開けろっ! どけ、どけ、どけーっ!!!」

次々と飛んでくる弾もものともせず、全速力で敵陣の中央を突破します。

敵の歩兵はあまりのオスカルの凄まじい気迫に押されて、

思わず身を引いてしまいます。

ダンプが全速力で突っ込んでくるようなものだものね。そりゃ怖いわ。

オスカルのさながら軍神か鬼神のような動きは

敵の包囲網をやすやすと突破してしまいました。

ものすごい勢いで戻ってきた衛兵隊をベルナールは何事を起きたのかと

訝しみながら迎えます。

「すまないがベルナール!すぐに医者を頼む!」

そして、オスカルはアンドレにこうささやきます。

「もう安心だ、アンドレ。すぐに医者が来る」

ベルナールはオスカルがアンドレと幼馴染の乳きょうだいで、

親密なのは知っていました。(たぶん、恋仲なのは知らないだろうけど)

今、頼みの綱のオスカルの士気が下がってもらうのはまずい。

ベルナールは市民の中からアンドレを診てもらう医者を募ります。

申し出る医者は次々といました。

夕暮れの鐘が鳴る。

「日が沈んだのか…。オスカル?」

アンドレが苦しい息の下からそっとささやくように尋ねます。

オスカルはアンドレの枕頭で安心させるように答えます。

「うん。今日の戦いは終わった。もう銃声ひとつしないだろ?」

これ以上ないほど、優しくて甘いオスカルの声音。

「鳩がねぐらに帰る羽音がする」

アンドレの目はもう見えない。

ベルナールは少し離れたところで医者にアンドレの容体を尋ねます。

「弾は心臓をまっすぐに貫いている。生きているのが不思議なくらいだ」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

アンドレがオスカルのほうへ手を差し出します。

オスカルはその手を両の手でしっかり握って自分の頬へ押し当てました。

次々と溢れる涙が頬を伝ってアンドレの手を濡らします。

「どうした、オスカル? 何を泣いている?」

さながら兄が泣き虫の妹をあやすように語り掛けるような、優しい声。

アンドレは、小さいころのオスカルを思い出しているのです。

ああ昔はいつも、こんな風に気の強いお姫さまをなだめていたなぁ、と。

「アンドレ…」

オスカルは、泣きながらアンドレに甘えるように懇願する。

そうすればアンドレが昔のように、自分の願いを何でも叶えてくれると信じているかのように。

「式を挙げてほしい。この戦いが終わったら、私を連れて地方へ行って、

どこか田舎の小さな教会を見つけて、そして結婚式を挙げてほしい…。そして神の前で

私を妻にすると誓ってほしい…」

オスカルはもう、大勢の部下を従えるヘッドという自分の立場を考えて、

威厳を保持するなどと、体裁を取り繕う余裕なんてありません。

まるで小娘のように身も世もなく、泣きながらアンドレに言う。

アンドレの表情が一瞬輝く。

「もちろんだ。そうするつもりだよ、オスカル。そうするつもりさ」

切れ切れに答えるアンドレの声は、それでもちょっと茶化すような茶目っ気があります。

アンドレの手を握りしめながら泣き続けるオスカル。もうその表情はただの恋する女そのものです。

「でも、オスカル。何を泣く? なぜ泣くんだ? …俺はもうだめなのか?」

一瞬の沈黙。

オスカルは必死に否定する。

「何をバカなことを! アンドレ…!」

「そうだね。そうだ。そんなはずはない。すべてはこれから始まるんだから。

俺とお前の愛も。新しい時代の夜明けも、すべてこれからなんだ。

こんな時に俺が死ねるはずがない、死んでたまるか」

悔しさが混じったアンドレの声。そして目から一掬の涙が。

オスカルはさらに元気づけるように言葉を重ねるのです。

「いつかアラスへ行った時、ふたりで日の出を見た。あの日の出をもう一度見よう、アンドレ。

あの素晴らしかった朝日を二人で。

二人で生まれてきて、出会って、そして生きて…。

本当に良かったと思いながら」

ですが、オスカルはアンドレの反応がないのに気が付いて絶句します。

「ああっ! アンドレっ?」

アンドレは逝ってしまった!

オスカルがあまりに可哀そうで見ていられず、ロザリーは思わず夫のベルナールにすがって泣きます。

帽子をとるアラン。

アンドレは皮肉なことに、今は両目を見開いてこと切れていました。

「アンドレっ!! 私を置いていくのか!?」

あたりの重苦しい沈黙の中をオスカルの悲痛な叫びだけが響き渡ります。

その場で泣き崩れてしまう。

周りのオスカルを知っている人間は、日ごろの彼女とのあまりもの

ギャップに言葉もありません。この人は本当はこんなに激しい人だったのか…。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

アンドレは近くの教会に他の死者と供に安置されました。

その教会の入口に腰を掛けてかがり火を茫然と見つめるオスカル。

もうすでに涙も枯れ果て、魂が抜けたようです。

一方生き残った衛兵隊員はバリケードの傍で暖を取りながら、

いつもの夜と変わらず、カード遊びをしていました。

カードを切りながら、隊員はつぶやく。

「そういえば、アンドレのやつ、俺たちと一度もカードはしなかった」

「どこかこう、変わっていたなぁ」

そりゃそうです。アンドレは平民とはいえ、小さいころからオスカルと一緒に育ったのです。

品がいいには違いない。彼はもともと、沈思黙考型で、軍人とは程遠い人間なのです。

アランはカード遊びをする男たちから離れて、

オスカルが気になって様子を見に行きます。

案の定、オスカルは石像のようにピクリとも身じろぎもせず、階段に腰かけていました。

「冷えるぜ、今夜は」

アランはオスカルの肩に自分のマントをかけてやる。

「隊長、安っぽい慰めはいいたかぁないが、アンドレは幸せもんだよ」

あんたへの想いが一応は通じたからよ」

アランはアンドレの苦しむのはそばにいてよく知っていたのです。

オスカルには決して見せなかった苦しみをアランは知っていました。

はっとしてアランを見上げるオスカル。

「元気だせや」

アランは、べたべたしない。さらりと慰めるのがうまい。

立ち去るアランの背中越しにオスカルは声をかける。

「アラン、待て!」

「明日からはわが軍の指揮はお前に任せる。

私は…、私はもうみんなを引っ張っていけそうもない…」

「やめなよ、オスカル!(もう呼び捨て 笑) そんなこと言い出したら切りがねぇ!」

怒気をはらませて言い放つアラン。

戦争なんてそもそもこういうもんじゃないか。

いつ死ぬかなんてわからないのが戦争だろうよ。あんただって

軍人なんだからそれくらい、わかりそうなもんじゃないか。

アランはやはり肝のすわった男です。下手な慰めなんかいわない。

「あんたの深い苦しみには較べようもねぇだろうが、ヤツが行っちまって傷ついているのは、

あんただけじゃねぇ。朝までにみんなの前に顔を出してくれや。

全てはこれからなんだからよ」

それはそうなんです。オスカルはパニックに陥っていて我を忘れているけれど、

オスカルの態度は軍人にあるまじきもの。

アランだってアンドレの死は辛いんです。辛い、辛いと言っていては、

大きな仕事は成就しません。みんな多かれ少なかれ、今回の戦争で愛する人を失くしています。

今は個人的な感情にとらわれてはいけないとアランは諭しているんですね。

それだけを言い残してアランはオスカルのもとを立ち去ります。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

アランが立ち去った後、オスカルは激しい吐血をして、

そのあまりの激しさに身もだえして、階段から転げ落ちてしまう。

けだるくて体は休みたがっているけれど、オスカルの感情がそれを許しません。

彼女はあてどなく夜のパリの街を徘徊し始めます。

じっとなんかしていられない、あまりに苦しくて。

いっそのこと発狂してしまいたい。

ゆらゆらとあてもなくさまよっていると、オスカルが乗り捨てた馬が辻にいました。

その馬はアンドレが世話をしていた馬です。それを見てまたアンドレを思い出してしまうオスカル。

そして、その馬に乗って、夜のパリを駆け抜けていきます。

ですが、途中で敵の歩哨三人に囲まれ、行く手を阻まれてしまいます。

三人はオスカルが離反したフランス衛兵隊の隊長だと気が付きました。

「謀反人の女隊長だ!」

彼らはオスカルの馬を撃ち殺します。馬から転げ落ちるオスカル。

オスカルを取り囲む三人。

造反した兵隊の親玉が大貴族の令嬢だったと聞いていたので、

男たちは興味も手伝って、なぶり殺しの前に辱めてやろうとすら考えている。

だが、捨て身のオスカルはもはやこんな男たちなんか怖くもなんともなかった。

私は結局のところ、どんなに頑張ってもどこまでも女でしかなかったわけだ…。 

自嘲気味に嗤うオスカル。

オスカルの身体が勝手に動いて、鞘からサーベルを抜き、

不気味な殺気をはらみながら、三人の男の前にふらりと立ちます。

オスカルの表情は虚ろで、それでいてぞっとするほど凄惨です。

敵は三人ながらに斬りかかってきますが、今のオスカルには敵わない。

オスカルは悪魔のように強い。だが、敵のひとりはオスカルの表情に気づく。

「おい、こいつ、泣いてやがる」

オスカルは剣を振りかざしながら、全く別のことを考えていました。

心の中で逝ってしまった愛しい人に向かって話しかけます。

「愛していました、アンドレ。おそらくずっと以前から。

気づくのが遅すぎたのです…。もっと早くあなたを愛している自分に気づいてさえいれば、

二人はもっとすばらしい日々を送れたに違いない。

あまりに静かに、あまりに優しく、あなたが私のそばにいたものだから、

私はその愛に気づかなかったのです。アンドレ、赦してほしい。

…愛は裏切ることより、愛に気づかぬほうがもっと罪深い…!」

ああ、なんてうるさい奴らだろう…。

オスカルはもうこんなぬるい連中と剣を交わしているのも面倒になり、

男たちから逃れて、また夜の街へと駆け去っていく。

おそらく、オスカルはこうも思っていたでしょう。

私は自分が貴族というだけで、思いあがっていたのだ。

私はアンドレの主だった。だが、それは私が彼よりも優れているわけでも何でもなく、

ただ、単に私が貴族でアンドレが平民だったからにすぎない。

それを長いこと疑問に思うこともなく、恬として恥じなかった自分…。

アンドレが寡黙でいつでも私に従ってくれたのは、

彼が深く私のことを愛し、そして寛容だったからなのだ。

私はそれを当たり前と思って彼に甘えてきたのだ。

橋の欄干にもたれ、空を見上げながら、またつぶやく。

「アンドレ…答えてほしい。もはやすべては終わったんだろうか?」

アンドレの死が受け入れられないオスカル。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

真夜中にひとりの男がアランを寝入っていたアランを起こす。

「アラン班長、隊長がどこにもいません!」

「バカ野郎、うろたえんな。朝までには帰って来る。心配すんな! そうみんなには行っておけ!」

アランは剛毅な男ですから、多少のことでは動じないのです。

アランは隊員の士気を衰えないようにそれとなく気をつけていました。

軍隊にはこういったものに動じない肝の座った男が必要なのです。

ぱらついていた小雨がやがて本降りへと変わっていきます。

アランはオスカルの体調を心配しました。

少し体を休めないと、明日に響くぜ、隊長。

オスカルは無責任な人間じゃない。きっと帰って来るはず。

だが隊長のあの取り乱しようは、日ごろの冷静沈着な彼女を見ていただけに

アランも心底驚いてしまいました。そんなにアンドレに惚れていたのかよ。

初めて知ったぜ。あんなにすました顔をしていたくせにな。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

一方、ベルナールたち、民衆の指導者は未明に一つの部屋に集合し、作戦会議を開いていました。

アランはオスカルの代わりに出席します。

ベルナールは明日はバスティーユを攻撃することになったと皆に告げます。

なぜなら、夜中にバスティーユへ多量の砲台と弾薬が運び込まれ、

普段は市外に向けられている砲台の照準がパリ市内に向けられているのがわかったからなのです。

本来なら、パリ市民を外敵から守るために設えてあった砲台が

今や市民に向けて照準が定められているなんて!

つまり、国王側は市内に民衆を皆殺しにするために、砲弾をぶっ放すつもりなのだと

ベルナールは怒りに震えながらその訳を話します。

なんだか、フランス革命=バスティーユと条件反射的に私たちは連想し、

なぜそうなったのかを深く考えませんが、

バスティーユの攻撃が歴史上何より名高いのは、それが国王や貴族などの体制側と

民衆の大きな闘いというだけでなく、

それが民衆の初めての、意思統一による支配者側への怒りによる行為だったからなのです。

つまり、このバスティーユ攻撃は、革命側のエリートたちによる扇動だけではなく、

心から新しい時代を求めた名もない市民の、自然発生的な団結の行動であったことに

大きな意味があるのです。

一方、オスカルは疲れた体を引きずりながら、夜の雨の町をなお彷徨っていました。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

バスティーユ攻撃

7月14日。

真の意味で革命が始まった日。

民衆はアンバリッド(廃兵院)から12の砲台と三万六千の銃を奪いました。

オスカルは力が尽きて、路地で気を失っていました。

だが、多くの民衆が叫ぶ声に目を覚まします。みんな口々に何かを叫んでいる…。

バスティーユ?

その時、路地の入口にアンドレが姿を見せ、オスカルを迎えに来た。

一瞬あっけにとられるオスカル。

「オスカル、どうした? こんなところで何をしている?

誰もがバスティーユへ向かったぞ。誰もが銃をとり、バスティーユへ向かった!

だが君が率いる衛兵隊の連中はまだ広場に。広場で隊長を信じて待っている」

とオスカルを叱った。

アンドレの幻影はいつしかアランに変わりました。

ああ、アランだったのか…。

そう、アランはオスカルことを心配して、あれから探していたのです。

オスカルは思う。

今、アンドレの魂が確かにここに来ていた。

そして私に戦えと命じたのだ。

ああ、そうだ。この戦いはアンドレの望んだ戦いでもある。

彼は平民というだけで、私と結ばれることを長らく諦めていたのだ。

人間はみな平等。私たちは身分の差さえなければ、もっと早く愛し合えるはずだった…。

これは私たちの戦いでもある。

そのために私は最後まで戦う、アンドレの分まで―。

それが、私が今、生きてここに在る理由なんだ―。

アランはオスカルに言います。

「隊長! みんながあんたと共に戦おうとあんたの帰りを待っている!」

「ああ」アランを安心させるようにオスカルは答えます。

オスカルはアランが昨晩貸してくれたマントを返す。

マントを脱ぐと雨で冷えた体がぶるっと震える。

オスカルは思わず、自分の肩を抱いた。

ああ、だけど! …今は抱き寄せて温めてくれる人はいない。

喪失の痛みが再びオスカルの身体を貫く。

「いつまでもみんなを待たせておいてはいけないな。

アラン、もう一度だけ、これで最後だ。泣いてもいいか?」

無性に人のぬくもりが今は恋しい。

「ああ、いいぜ…。思いっきり泣けよ」

アランの胸にすがって、号泣するオスカル。

隊長さんよ、あんたやっぱり女だな。こんなふうに泣くなんて。

アランは、自分の胸にすがるオスカルの肩を抱いてやる。

漢気がありますねぇ、アラン。惚れます。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

午後1時。戦闘は開始されます。 

バスティーユは市民に向かって砲弾をバンバン撃ち始めます。

バスティーユ側の猛烈な攻撃に市民はなすすべもなもない。あっという間にたくさんの死者が出、

街の多くの建物が破壊されました。

アンバリッドから、せっかく12の砲台を運んできても、

みな、戦争には素人。使い方が全く分からないのです。

そこへオスカルが部下を率いてやってきました。

さっきまでの激情は顔から拭い去られ、どこをどうみても冷静な武人そのものです。

あまつさえ、その表情はうっすらと不敵な笑みを浮かべ、どこか余裕の自信すらうかがえる。

「すまない! 遅くなった。大砲のことは我々が引き受けよう!」

ベルナールは昨日から一転、冷静沈着なオスカルをみて、驚きます。

助かった! よし、行ける! と確信しました。

彼女さえ、立ち直ってくれたら、こっちのものだ!

ベルナールは彼女が軍略に長けたなかなかの知将であることも知っています。

とはいえ、もともと彼女は生真面目でどちらかというと、

無意識でそんな不敵な面構えなどできるタイプじゃないんですよ。

そこらへんがちょっとひっかかるベルナールですが、

もはやそんな悠長なことは言ってられません。

オスカルはてきぱきと皆に指示する。

「よし! 全員配置につけ!」

「砲撃準備!」

オスカルはみなの先頭に立ち、サーベルをかざして命令する!

「発射角、45度。狙うは城壁上部!」

砲撃するのは、プロじゃないと無理なのです。

オスカルは瞬時に三角関数を用いて、角度を割り出したのですね。

「撃て!」

爆風で黄金の髪が逆立つのをものともせず、眉一つ動かさず命令を与えるオスカルは

まさに無敵の軍神アレス。見ていて怖いくらいです。

凄まじい勢いでバスティーユの城壁が次々と破壊されていきます。

「撃てーっ!」

爆撃されて壊れる城壁を見て、口元をわずかにほころばせるオスカルは、

今や殺戮を糧として喜ぶ、皆殺しの天使にも見えます。

もう彼女は命のやり取りに悩んだりしない。

そんなオスカルのまさに一騎当千の働きぶりに、市民側はおおいに沸き立ちました。

対してバスティーユ側は慌てました。

「敵はかなり正確にこちらを砲撃してきています!」

部下の報告にバスティーユ総司令官ド・ローネイは訝る。

あいつらは、ただの暴徒だ。それなのになぜ?

ド・ローネイは窓の影から外をうかがうと

あの離反した謀反人の女隊長が指揮をとって攻撃しています。

おそろしい女だ。オスカル・フランソワ。

無知蒙昧の平民風情ならいざ知らず、近衛隊の連隊長を務め王后陛下に長らくお仕えし、

その大恩を受けながら、それに背いた大逆人。

お前は万死に値する。

まあ、あやつとて不死身ではなかろう。

それならば徹底的に息の根を止めてやるまで!

ド・ローネイは命令する。

「あの指揮官に狙いをしぼれ! 一斉にあいつに集中して攻撃するのだ!」

バスティーユの兵隊たちはみな長銃をかまえ、一斉に射撃の用意をします。

まさにそのとき、なぜかオスカルはふと天上を見上げ、一羽の鳩を見た。

オスカルがバスティーユの城壁からまさに目を逸らせた、まさにその瞬間、

一斉に銃口から火が噴く!

いくつもの銃弾がオスカルの身体を貫きます。

オスカルの身体から血しぶきが。

持っていたサーベルを取り落とし、

オスカルは一瞬、この身に何が起こったのか分からずに、

目を開けたまま、地に倒れた。

頭から血がたらたらと顔を伝って流れている…。

オスカルはつぶやいた。「アンドレ…」

傍にいた隊員がオスカルに駆け寄る。アランはオスカルを抱えて叫んだ。

「隊長! オスカル隊長! しっかりしてください! 聞こえますか? 隊長!」

オスカルが切れ切れに言う。

「…大声を出すな…アラン…。…ちゃんと…聞こえて…いる」

アランは周囲を怒鳴りつけます。

「何してるんだ! みんな手を貸せ! 安全な場所に移動する!」

バスティーユ側は勝機が戻ったことを悟り、再び攻撃を開始します。

「撃てー!!」

バスティーユは周囲の家々を破壊していく。

路地裏に運ばれるオスカル。

さらに安全な場所へと急ごうとするベルナール。だが先導しようとするベルナールをアランは止めます。

「ベルナール、ちょっと待ってくれ。オスカルが…」

「降ろしてくれ、アラン…。降ろして…。とても疲れている。頼む、お願いだ。

あ…。とても疲れているから、五分でいい。静かに休みたい…」

ベルナールはとっさに同行してきた医者の顔をうかがいます。

医者はそれを見て、周りの人間に指示した。

「うむ、毛布をここへ」

オスカルの脈を取りながら医者はいいます。

「誰か顔の血をふき取ってあげなさい」

もう、助からないことは明らかなのです。

あれだけの弾をこの身に浴びたのですから。

後ろからロザリーが前に出て申し出た。

「私が…」

ロザリーは目の前のオスカルが悪夢であってほしい、と思います。

オスカルの顔の血をふき取るロザリー。

オスカルはうっすらと目を開けてつぶやく。

「どうした…?味方の大砲の音が聞こえないぞ…。撃て、攻撃を続けろ…。

バスティーユを陥とすんだ…!」

オスカルが虫の息でそういうとアランは奮い立ちます!

そうだ! 俺たちはここで泣いていても仕方がねえ。

「元衛兵隊員! 全員配置につけい!」

「おう!」みんな一斉に叫ぶ。

「撃て。撃つんだ…!」

意識がもうろうとし始めたオスカルが、それでも命令している。

みな、はじかれたように戦場へ駆け出していく。

アランも駆け出したが、突然オスカルに向かって振り返り、

最後の別れとなるだろう敬礼を返し、再び駆け出していきます。

アランの怒号は周囲に響く。

「よーし! みんな! 撃ちまくるんだ!」

「おう!」みんなすごい気迫です。

決死の猛攻撃が繰り出されます。打ち砕かれていくバスティーユの城壁。

民衆もアランたちに鼓舞され、叫ぶ。

「よーし!突っ込もう!」

奔流のようにバスティーユの門へなだれ込む民衆…。

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一方、瀕死のオスカルの傍にはベルナール夫妻が付き添っていました。

ベルナールがオスカルにささやく。

「聞こえるか、オスカル? 味方の総攻撃の声だ!」

ですが、オスカルの心はすでに闘いから離れています。

自分が今味わっている感覚に陶然としていました。

愛してやまない人の気配がする…。

彼と一緒に過ごしたあの夜の、あの至福感が光となって体を包んでいくのがわかる。

まるで闇の中に光が充満していくように…。

オスカルは肉体の苦痛から解放されました。

ああ、その時がついに来たんだな。行こう―。

オスカルは静かにこの世に別れの言葉をつぶやく。

「アデュウ…」

彼女の瞼に微笑んだアンドレの面影が現れ、それが光に収斂し、やがて消えた。

そしてオスカルは二度と目を開くことはなかった…。

その一時間後にバスティーユは陥落したのです。

まさしく彼女は気高く咲く薔薇のごとく

人生の時期で、まさに人が成熟に達した美しさの頂点で、この世を去っていったのでした。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

原作を読んでいると、子供の頃は全く気が付かなかったけど、

アンドレ、オスカルと恋仲になる頃は

なぜかめちゃくちゃセクシー。フェロモンムンムンですね。(笑)

なぜか男版壇蜜といわれる斎藤工を思い出してしまいました。

彼は今、ちょうどフェロモン・アンドレと同じ年齢ですものね。

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昔読んだ感想と今読んだ感想はかなり違います。

やっぱり原作とアニメは別の作品です。

原作のオスカルは強くて凛々しい顔をしています。

知性が際立ったクールな美貌。何より強さを感じるのです。

ですが、アニメのほうのオスカルの印象は

何よりも先に憂い、ってものを感じさせるのです。

そして、ときどき誰か男性がぎゅっと彼女を思わず抱きしめてやりたくなるくらい

儚くて健気なところがあります。

私は、アニメの主題は、原作のように自由自在に男社会を生きるスーパーヒロインの話ではなく、

本来の女性という性を否定されて生きたヒロインが、自分の力と眞に愛してくれる男性の愛

で本来の自分を取り戻す話だと感じました。

途中で、「より男らしくなるために、私はひとりで生きる」と強がってみせる所は

かつての自分を見るようで、胸が締め付けられるほどでした。

また、フェルゼンへの恋は、いわば憧れの混じった幼いともいえる恋で、

しかし、こういう恋愛を変遷しないと、決して大人の感性でしか得ることのない

アンドレとの恋愛は成就できなかったように思うのです。

アンドレの愛は、相手に求めることのない神のような無償の愛です。

オスカルに「愛している」というのは反対に「愛してくれ」と圧力をかけることだと

知っているのです。

だから、彼は非常に辛い思いをしながら、何年も耐えたのですね。

彼は最初から、お人形さんのように愛くるしい顔をしているくせに

自分を男だと言い張るほんの小さい女の子だった

オスカルにあったそのときから、

彼女のすべてに捕らえられてしまっているのです。

もう目も開けていられないぐらい、まぶしいほど美しく成長していくオスカル。

目をそらすことなんかできやしない。

もう、アンドレはオスカルにあった瞬間からこの運命には逆らえなかったのです。

「男として生きる」という理不尽なくびきを背負った彼女を一生守り抜くと。

それができる人間は俺しかいない!

その誠実さ、真摯さ、ひたむきさが結局、オスカルの心を動かすのです。

アンドレは寡黙で控えめな男ですが、

実をいうとまばゆくオスカルを輝かせていた、その光源なのです。

影だなんてとんでもない。

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昔、ベルばらを読んで、単純にオスカルに憧れました。

美しいうえに聡明で、しかも身体能力も高い。

うらやましい! 自分がこれほどの容姿や能力があれば、

さぞや楽しくて有意義な人生が送られるだろうとも思いました。

でも、今回、アニばらを見て、それは違うんじゃないかと思ったのです。

 たとえ、肉体や能力は同じだとしても、その中に入っているたましいが

本当に気高さや優しさにあふれていないと、

決してオスカルのようには生きることができない。

何事にも誠実でひたむきに生きたオスカル。美しい人生だと思います。

出崎さんのこの作品は、とにかく常に見る者の胸を錐で刺し込む鋭い痛みを喚起させます。

それほどまでに、オスカル、アンドレを始め、アントワネット、フェルゼン、そのほか大勢の人間に

至るまで、切なくなるほど一生懸命、ぎりぎりまで命の火を燃やして生きているのが印象的でした。

人は弱くて悲しい。必死にもがきながら生きている。

だからこそ、その生きている瞬間瞬間が輝く。

ながいことお付き合いくださいまして、ありがとうございました!


パリへ出撃の朝    出崎統の『ベルサイユのばら』6 [シリーズで考える深い考察]

アンドレの声の志垣太郎さんは

お若いときは、まるで平家物語の挿絵から抜け出て来た公達のような

キリリとした古典的容貌の俳優さんでしたが、

その後長らく「あかんたれ」の主人公を演じておられ

いつも「すんまへん、すんまへん」ばかり言っている丁稚どんのイメージしかなかった。

かつ、アニばらの最後のエンディングのインパクトがすごすぎて、

恥ずかしがりの私は、限りない拒否反応を示してしまっていたのですが、

こうやってよく聞いてみると

よく響く声だし、どこかナイーブで少年っぽさがあるいい声なんですよね。

そしてやっぱり手堅い演技です。さりげないやさしさがよく伝わってくるもん。

いよいよ運命の瞬間がやってきます。

ここからはだんだんと可哀そうな感じ(いや、すでに可哀そうな感じにはなってきてるんだけど)に

なってくるんで、見てるのがつらいですね。

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パリへ出撃す

さて、ふたりは7月13日の未明にフランス衛兵隊ヴェルサイユ駐屯地の

門をくぐりました。

出発したの、昨日の夕方じゃなかったっけ?

多分、あの後3時ぐらいまで、ふたりは疲れ果てて

森の中で転がって眠っていいたんだろうね、きっと。(笑)

隊のみんなは何してんだろう?と心配していたかもよ。

「すぐに後を追う」って隊長いってたよなぁ。みたいな?

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オスカルが夜明け前に兵舎に着いたときには、すでに中では

騒然としていました。

みんな隊長が来るのを今か今かと待っていたようで、

オスカルが来ると、みんな彼女のこれからの判断を仰ごうと

まわりを取り囲みます。

オスカルは静かに、力強く話し始めます。

「諸君。もう知っていると思うが、わがB中隊は

午前8時、パリ、チュイルリー広場へと進撃する。

目的は武装した市民への牽制である。

暴動となった場合は民衆に発砲。これを鎮圧せねばならない。

民衆の中にはおそらく、諸君の親や兄弟がいることと思う。

たとえ私が発砲を命じても、君たちは引き金を引かないだろう。それが当然と思う。

私の考えを言おう。いや、私は自分の取るべき道を述べる。全く個人的にだが。

私は今、この場で諸君の隊長であることを辞める」

すごく、すごくかっこいい箇所です。やっぱり冷静沈着な司令官だな~っていう威厳があるのです。

ですが、ここからがすごい。

「なぜなら、私の愛する人、私の信じる人が諸君と同じように民衆に対して発砲しないと思うからだ。

私はその人に従おうと思う。その人が民衆と共に戦おうというなら、私は戦う」

ここで、ん?と見てるほうがちょっと心配になってくるんですよ。

その人って誰?まさかみんなの前でいうのかなぁ、それを?

「諸君、私はアンドレ・グランディエの妻となった。

私は夫の信じる道を共に歩く妻となりたい」

うわ、言っちゃったんですね!

ガーン!

恥ずかしいこといってんじゃないよ!見てるこっちがいたたまれなくなるじゃん。(笑)

ちょっと苦手なシーンかも…。

受け入れられないわ~。この場面だけは。

私、そういう個人的なこと、人前にさらすのだけは耐えがたくキライなタイプなので。

いくら信頼関係のおける人間関係であっても、そういうことはちょっと言えないかもな~。

私がオスカルなら、これは拷問だよ~。さらし刑だと思う。

すごいね。准将が一兵卒と結婚しちゃったんだよ。

ま、それはいいんだけど、何も今、いざ出陣と言うときに

こんな隊員の士気を鼓舞することすれ、落とすこんな生々しいこと言わなくてもいいのに~~www

とは思うんですが、

よく考えると、ここでこういう風に言わないと、

なぜ、今、大貴族の将校であるオスカルが民衆側に寝返るのか、

物語を受け取る側にその真意がわからなくなると

製作者側が判断したからなんですかねぇ?

みんなに隠しておくと、まもなく来るであろうアンドレの死に対して、

どうしてあそこまでオスカルが動揺するのか、

隊員たちにはわからないって側面があるからなんだと思う。たぶん。

だって、アンドレの他にも戦死した仲間はいっぱいいたはずだし。

私はいつも、原作をけなしがちなんだけど、でもこのパリ出動からオスカルの死までの部分って

原作は原作で非常に秀逸なんですよね。

原作は、出動命令が出ても、オスカルは最後の最後まで、国王軍は民衆に向かって発砲しないだろうと

希望をもって出動するのです。

ですが、とうとう国王軍は民衆に向かって発砲したとき、

オスカルが自分の地位も名前も名誉も捨てて、民衆側について戦う。

私とついてくるものはついてこい!みたいな感じなんですよ。

それにアンドレは最後まで自分が失明したことをオスカルに悟らせなかったから

一緒に出動して、オスカルが喀血してむせているときに弾に当たりそうになったのを

とっさにかばって死ぬんです。

なんか話としてはそのほうがナチュラルな気がします。

私は、こっちのほうがいいような気がしてるんですけどね。

ただ、こうするとアンドレがいかにも添え物みたいな感じで主体性がないんですよね。

ってか、アンドレってオスカルとふたりだけでいるときはともかく、

集団でいると埋もれてしまう地味な存在なんですよ!

オスカルばっかりが際立って見えて。これ以上地味にしてはならない。(笑)

あと、なんていうのかな。これは原作にもアニメにも両方に言えることだけど、

オスカルのやってることって、そこらへんの伍長風情のやってることで、

准将がすることじゃないと思うんですよね。

ま、しかし、かの英雄ナポレオンも将軍でありながら、伍長のように一前線の一番前で皆を

指揮していたというし、勇者というものはそういうものなのかもしれない。

あながち間違いというわけでもないかもね。

ま、この作品は軍隊がメインの話じゃないんで、そこらへんはいい加減でもいいんかもしれないけど、

兵隊が少なすぎるような気がして。

あの、『坂の上の雲』の海軍の秋山中佐もあんなに偉大だったのに、中佐で終わってるしね。

ま、アンシャン・レジームの頃のフランスの軍隊と明治の日本とじゃ比べられないかな。

あとね、原作をよく読むと、私が思った以上にきちんと革命の歴史的背景は

説明されてはいるんだけど、やはりそこは説明なんで、歴史の教科書を読むかんじなんですよね。

また、やはりオスカルとアンドレの恋愛を縦軸にして読むと、

別にそんな歴史的な細かいことなんか読者にしたら、どうでもいいんですよね。

恋愛のエピソードが歴史的事件の合間合間に挟まっているから

余計にわからなくなるという側面があります。 

原作のオスカルは割と早くから「自由・平等・博愛」の革命のプロパガンダに

共鳴していて、まあ、貴族の中にはそういう人もいただろうけど、

動機付けとしてはイマイチ弱い。

衛兵隊の平民出身の兵隊たちをみて同情していても、

あんなに敬愛していた王妃様たちを見捨てて、民衆側に寝返るっていうのは

見ている側への説得力に欠けます。

まぁ、シナリオ考えるとき、かなり苦慮したんだろう、という努力の後が見られます。

しかし、今やオスカルはなんだか自信満々です。

今まではどこか、欠落感があったというか、

男でも女でもない自分のアイデンティティに自信がなかったのかもしれないけど、

今は男、女どちらもの力を兼ね備えた軍神のように見えてしまう。

玉虫色に男にも女にも見える。不思議だ…。

後ろに控えめに立っていたアンドレは思わずつぶやく。

「オスカル…」

椅子に座って話していたオスカルは立ち上がり、振り返ってアンドレに言う。

「アンドレ、命じてくれ。アンドレの行く道は私の信じる道」

きっぱり。(笑)

アニメでは、アンドレのほうが革命思想に興味があって、

市民集会などへ行って、ベルナールの演説を聞いたりしているし、

また、ベルナールに「君ほどの人間が貴族につかわれているのはもったいない。

僕らの陣営に来ないか?」などと誘われたりしているんですね。

だから、まあ、ある程度潜在的な実力がある人という風に扱われているみたいですね。

なんだか男ばっかりのところでいうと、大丈夫なんかなぁと思うのですが、

姐さんに心酔しきっている隊員は、実は二人の仲を知っていたみたいで

別段驚かない。

今まで黙って聞いていたアランがいう。

「へへ、隊長。あんたは隊長を辞める必要なんてねぇよ。

あんたが来る前に相談ぶってた。もし戦いになったら、おれたちゃその場で衛兵隊を辞めて

革命に身を投じようじゃないかってね!

だがあんたがその気ならそんな必要はねぇ!

おれたちゃ、あんたの指揮の下であんたと一緒に戦う!」

みんな女であっても隊長の実力を知り抜いています。

みんな彼女を尊敬し、頼りにしているのです。

ふ、「もののけ姫」の中の、荒くれ男どもを従えさせる男勝りのエボシ御前みたいね。

「みんながバラバラになるより、そのほうがずっと力になる」

そうなんですね。餅は餅屋。戦争にはプロの軍人の指揮官なのです。

今までなら、オスカルは自分の一存でことを決めていました。が、

「アンドレ?」

と自分の夫になった男の顔をうかがうのです。

この上なく凛々しいのに、なぜか色気もある不思議な光景である。

「アランのいう通りだよ、オスカル」

う~~ん、ストラテジーのほうはオスカルに任せ、

その後の市民側のブレーンとしてアンドレを据えるつもりなのでしょうか。

とまれ、アランはオスカルのほうに手を差し出す。

「よろしく頼むぜ!隊長」

二人はぐっと力強く握手する。

アランはふたりを祝福します。

「あ、それから。おめでとよ、おふたりさん」

今度ばかりはふたりとも気まずそうに目を伏せていますね。

そりゃそうだ。昨晩何していたか、みんなにバレバレじゃん。

でも、アランは冷やかしばかりでなく、嬉しかったのかも。

特にアンドレにはすごい友情を感じていたから。

友だちとして本当に嬉しかったんでしょう。

姐さんの漢気(おとこぎ)にも敬服して心酔してるしね!

とはいえ、わたくし個人的にはこの場面はナシだな↓

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

パリ、チュイルリー広場 午前8時

チュイルリー広場には二万三千丁の銃を構えた民衆が、集まっている。

ある一人の男が軍隊に向かって過激にやじを飛ばし、石礫をなげた。

激怒した兵隊は、子供を撃ち殺す。

あ~、とうとうやってしまいました!

市民たちは国王の軍隊が一発でも発砲したなら、

命を懸けてこれと戦う、と宣言していたのです。

戦いの火ぶたは切られてしまいました!

ですが、どんなに民衆のハートが祖国愛に熱く滾っていても

戦いのプロの軍隊にはかなうはずもなく、バタバタと撃ち殺されてしまい、阿鼻叫喚地獄が出現。

あっという間にそこらじゅう、死体の山です。

オスカル率いる元、フランス衛兵隊の50人は急いで、チュイルリー広場へ向かいます。

オスカルはそこにいるドイツ人騎兵連隊と対峙しました。

(ドイツ人も来たのか…。やれやれ)

騎兵連隊は味方が来たものと思ったのですが、

オスカルは手をあげ、全隊員に銃を構え、の号令を出す。

驚く国王軍の将校。オスカルに向かってこういう。

「私はランベスク公爵。君の名前は?階級は?称号は?」

「名はオスカル・フランソワ。階級と称号はない!」

オスカルは、ド・ジャルジェという貴族の名前を捨てました。

今はただのオスカル・フランソワ。洗礼名だけ。

しかし、名乗るなよ~。後でえらい目にあうやん!

どういう事態に陥ったのかわからない敵将。オスカルは続けてこういった。

「兵を引いてください、ランベスク公爵。さもないと我々はあなた方に対して

一斉射撃をします」

「君たちは一体…?」訝しむ敵将。

「衛兵隊B中隊は今日限り全員除隊致しました」

ランベスク公爵の隊はこれを聞いて、もともと地元人であり、かつパリを警備して、

地の利がよくわかっている彼らと

今ことを構えて戦うのは不利だと思い、まずは一旦退却していきました。

オスカルは胸につけていた階級章をむしり取って、ぞんざいに道に捨てた。

「もう、これはいらないな」

カランと道に転がる階級章。

後ろでオスカルたちのやり取りをみていた民衆のひとりが尋ねた。

「あんたがた、俺たちと一緒に戦おうってのかい?」

「その通りです」

「信用できねぇな。信用しろってほうが無理だ!」

「彼らのいうことはもっともだ。しかしここはどうでも、信用してもらわねばならない。

アラン持っていてくれ」

オスカルは所持していた短銃とサーベルをアランに渡し下馬する。

そして民衆の中へ入っていく。

「私のいうことを聞いてくれ! 私は貴族だった。それだけでも銃を向けられ、

今ここで撃ち殺されても文句は言えない。だが、これだけは信じてほしい。

私と共にあり、私にこうせよといった隊員諸君は私とは違う。

皆さんと同じ心を持った第三身分の出だ。衛兵隊で給料をもらいながらも、

この日の来るのを首を長くして待っていた男たちだ。

彼らは、せめて私の隊員たちは信じてやってほしい。

信じて、そして一緒に戦ってやってほしい。

そのために必要ならば、私はここで撃たれよう」

短気ですね、オスカル。ここで撃ち殺されたらアンドレが泣くじゃん。

そこへ民衆のリーダーのひとりであるベルナールが人の波をかき分けやって来る。

ベルナールは民衆に聞こえるように、大きな声でオスカルに向かって言う。

「私は衛兵隊のみなさんを信じます。そしてあなたを!」

二人は民衆の中で握手します。「ようこそ、オスカル・フランソワ!」

民衆はこのやりとりをみて、オスカルが本当に民衆側の人間だと信用したのです。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

ほどなくして、アルマン連隊が行進してくる太鼓の音が近づいてくる。

オスカルははっとなって、みんなに号令を下します!「全体騎乗!」

オスカルはベルナールに広場にバリケードを築くように促しました。

ベルナールはバリケードを築く意味がわからない。素人って悲しいですね。

「バリケードを築けば、少ない武器でも互角に戦うことができる」

ああ、やはり少しのことも先達はあらまほしきものなり。オスカル頼もしい~。

プロのいうことは違います。

オスカルはベルナールたちが広場にバリケードを作る時間稼ぎと

敵の進撃を阻むため、先制攻撃をしに広場を離れます。

パリの街を知り尽くしているオスカルたちは、まるで義経のように鵯越のような坂から

馬を駆り立てて敵軍の側面を激突します。

(どうもサクレクールあたりのような気がしますが)

かなりイタい損失を敵側に与えてまずまずの快進撃です。

ここまではよかったのです。

7月13日午後3時

国王軍と市民の争いはさらに激しく、人がバタバタ死んでおります。

もうすでに、全軍あまねくオスカルの部隊が国王軍から離反したことが知れ渡っていました。

国王軍がそこここに包囲網を張り、潜んでオスカルたちを迎え撃とうと待ち構えています。

う~~ん、10万対50では、かなり、いや絶望的に厳しい…。

そして、まさか突然アンドレはこんなところで視力を失ってしまうのです。

アランはアンドレかばいながら敵を交わして退却します。

オスカルたちもサン・マルタン運河で待ち構える国王軍に一斉射撃され、

退却しますが、退路が見つかりません。

仕方なく、彼らは地下下水道に逃げ込みます。

味方はすでに半分くらい死んでしまいました。

軍人といえど、オスカルもこれが初めての実戦で、初めて人を殺したのです。

彼女は部下が死んでしまって、かなり意気消沈し、戦意喪失しているのですねぇ。

たぶん、ここらへんがオスカルの武人としての限界だったのかもしれません。

技として武術に長けているのと、本当の人殺しとはまた次元が違うものですしね。

でもそれでも、冷静に勇気をふりしぼって皆に伝えます。

「…とにかく…我々はまたここからチュイルリー広場へ戻る。

これだけの人数ではベルナールと合流して戦う以外道はない。」

そこへアランが口を挟む。

「問題は広場まで行けるかどうかだな。途中で軍隊がゴロゴロしている」

オスカルが言われたくない一番痛いところを茶化していってしまう。

でもそういうところがかえってアランらしい。

「だが、強引につっきるしかねぇ! でしょ? 隊長?」

アラン、アランいいねぇ~。いいキャラだよね。

オスカルもアンドレみたいな地味な奴じゃなくて、

こういう原色に近い明るいのと一緒になればいいのに、と密かに思う私。

一挙にみんなの顔が明るくなる。アランは実に人の心を操るのがうまい!

「じゃあ、行きましょうや!決まりだ!」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

みな覚悟して、下水道から出る準備をする。

太陽はもう半分、見えなくなっている。明々と空が朱に染まっている。

そして下水溝の入口から先頭に立って出て来るオスカル。

ところが、歩道を上がる階段の上に敵の歩哨が見張りに立っていた。

歩哨とオスカルの目が合う。とっさにオスカルは歩哨めがけて銃の引き金を引いた。

殺されて倒れる歩哨。

しかし、同時に歩哨も引き金を引いていた。それはオスカルには当たらなかったが、

アンドレの胸を貫いていた。

「…オスカル…」

アンドレに駆け寄るオスカル。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

本来主人公の恋人の役なら、

その死はもっと重々しく荘重に描かれるべきものだと思うけど、

アンドレは戦闘で死ぬんでなくて、

オスカルに殺された敵兵の撃った流れ弾に当たって死ぬんです。

どうでもいいような死に方ですよね。

でも、これもよく考えられているような気がする。

オスカルだって、その歩哨を簡単に殺した。

この男にだって、ものすごく悲しむ親や兄弟、妻や子供がいたはずなのです。

それに戦死した衛兵隊士だってそう。

この革命で死んだ人間はみんな決して殺されてもかまわない人間なんて誰一人いないんですよ。

でも、戦争になってこんなことが起こってしまう。

アンドレの死に方をこんな方法にすることで、

余計にその死が身近に感じるじゃないですか。

主人公がどんなにその身が張り裂けそうに嘆いて号泣したところで、

一天にわかに搔き曇り、竜巻が置き、雷鳴がなるわけじゃないです。

ごくごく普通の夕方なのです。

そんな中で、アンドレは死んでいくのです。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

オスカルについて書いているとつい、アンジェリーナ・ジョリーを思い出す。

ベルばらが連載していたころは1970年代。

女の子が男と同等に肩を並べて活躍している、というところが

ものすごく共感できたのだと思います。

そして、ベルばら以前であれば、たぶんオスカルのような女は

恋も許されず、ひとりで頑張って死ぬような気がする。

だけど、当時これが新しかったのは、そんな男よりも凛々しいオスカルが

恋愛して、成就できたことが快挙だったのかも。

しかし、今じゃ、NATO軍だって、イスラエル軍だって

女の子も兵役につかなきゃならないし、当然女の将校もいます。

タイトルは忘れちゃったけど、昔みた映画で、ジュリアロバーツがある男と

飛行機で隣り合わせの席に乗り合わせて、たわいない話をするんですよね。

男はこれからどちへいかれるんですか?と尋ねると、

ジュリアロバーツは愛してやまない人のところへこれから行くの。と答えるんですよ。

で、実のところはジュリアロバーツは、軍隊の女将校で、やっと休暇が明けたので

愛する息子が待つ家へ帰る、っていう話だった。

そう、もう時代ってそんな時代なんですよ。

本当はもうちょっと書くべきなのかもしれないけど、ここらへんで。

See you!


心と心が通い合うその瞬間   出崎統の『ベルサイユのばら』5 [シリーズで考える深い考察]

さて。

今回は最大のヤマ場になりますかね。

前回で私はアンドレはオスカルにこれまで「愛している」なんて実際には一度しか言ったことがない、

といいましたが、なんだかしょっちゅうしょっちゅう耳にしているような気がする…。

ハッ!よく考えてみればエンディングのときに毎回毎回叫んでるよなぁ…。アンドレ。

あれはアニばらの最大の失敗の演出だと思うね。はっきりいって聞いているこっちのほうが

恥ずかしくていたたまれなくなる気がするンだもん!(爆)

さて、いってみよう~!

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

革命の引き金

このフランス革命も、突然、市民が暴れだして国王を処刑したわけじゃない。

それなりに双方歩み寄ろうと努力して、どこかで妥協点をみつけ

平和裏のうちに解決できればそれにこしたことはない。

オスカルは長年王妃様にお仕えしてきて、王妃様を心から敬愛しているんです。

またその一方で、アンドレはもちろんのこと、アランやベルナールみたいな平民の気持ちだって

よくわかる。

だから、今はフランス国民、貴族も平民も一丸となってこの国家の危機を乗り切れたら、

と願っているんです。

それは、オスカルだけじゃなくて、他の心ある人たちもそう願っていたに違いないのです。

人殺しというのは、何かをする最終手段ですから。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

財務長官ネッケルは、フランスの国家財政が破たんしていることを

国民に宣言してしまいました。

そんな大事なことを黙っていても、いい方向に進んでいかないからです。

つまり、ネッケルも一部の心ある貴族も、(オスカルもその中にはいっているけれど)

流血を避けるために、国政を改革しなければならない、と思っていました。

これまでは国王の承認を受けない、一切の議決は無効とされてきました。

ですから、これからは王室に国政を全部任せるのではなく、

国民議会を作って、そこで国民に選ばれた議員たちが討論しあって、

フランスの政治を担っていくしかないと思っていたのです

ネッケルは流血を避けるため、国民議会の承認を国王に求めました。

要するに、フランスの政治形態を立憲君主制にするしかない、と進言したのです。

つまりイギリスのような政治形態でしょうか。

つまり国王の権力はある程度、制限される政治形態です。

「君臨すれども統治せず」ですね。

 けれども、国王を始め、多くの貴族たちはわりに楽観的で

国民がどんなに疲弊しているかを的確につかんでいなかったのです。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

そんな中、オスカルはヴェルサイユ宮殿に伺候します。

それはこの間の本来なら許されるはずがない軍規違反を犯し、

あわや身分剥奪、国外追放処分にされるところだったのを

王妃に免じて、無罪放免になったことに対するお礼を言うためです。

王妃の温情で一切をおとがめなし、となったオスカルは王妃に感謝の意を伝えます。

「ありがとうございます。これもすべて王妃さまのお蔭でございます」

アントワネットはオスカルは優しいから、たぶん哀れな平民たちに同情したのでしょう、

ぐらいに思っている。

「そんなこと、当たり前のことです。私たち、お友達でしょう?それ20年も前からの…」

あの晴れやかなお輿入れの日からそんなに年月が経ってしまったんだと

改めて二人は感じ入るのです。

アントワネットは思います。

あの時は、大勢の民衆にあんなにも愛されてこの国に迎えられた。

それなのに、今はもう…。

まるで夢のようです。

アントワネットはオスカルにこう語りかけます。

「こんな世の中ですもの。お互い嫌な思いをしますね」

オスカルとアントワネットの目が潤む。しかしアントワネットはこう続けるのです。

「でも、もうすぐこの騒ぎは収まります。

今フランス中でパリとベルサイユを目指して続々と国家の軍隊が進軍しています。

南フランスの騎兵連隊、

そしてシャラントからロワイヤル・クラバット連隊、

さらにイシーからサリースサマート連隊が。

全部で10万人の軍隊です。これだけ投入すれば、きっと…」

「王妃様、それは?」

「もちろん、暴徒に対して、武力鎮圧するためです。

王室の尊厳を傷つけるものは何人たりとも赦してはいけないのです、オスカル」

オスカルはアントワネットの言葉を聞いて、凍り付く思いがしました。

しかし、それに反論することもなく、黙って引き下がるのです。

この間、ふたりの会話に流れるのは、ラモーの『優しい訴え』

う~~ん、すばらしい選曲ですね。

どこか物憂いクラブサンの音色は

やはりロココのものなのです。

アントワネットは過ぎ去りゆく時代に取り残された人間として

象徴されているのですね。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

というのも、オスカルはかなり病気が悪化していて

いつも熱があって、体がだるく、そして常に咳き込んでは喀血していたのです。

そんなある日、夜間の市街巡回の時間が来て、アンドレがオスカルを呼びに行くと

オスカルが苦しそうに咳き込んでいました。

兵舎や他の隊員がいるところでは、常に他人行儀にしているふたりですが、

あまりに苦しそうにしているオスカルを見て、アンドレはつい、駆け寄って尋ねます。

「オスカル、大丈夫なのか?」

「いや、夏風邪が長引いていて、ちょっと熱がある。

申しわけないが、今夜はアランに巡回の指揮をとるよう伝えてくれないか?」

オスカルは適当にごまかそうとします。

ですが、アンドレはそんなことぐらいでは決して欺かれなかったのです。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

オスカルは、自分の遠くない未来におこる死を感じていました。

これまでは絶対に嫌がって肖像画などを描かせなかったのですが、

画家をよこして肖像画を描かせたのです。

たぶんそれは、自分が先だった後の家族やばあやや、

もちろんアンドレへの心のよすがとしての形見ですね。

雇われた画家は、オスカルの真意を見抜いていました。

「あの顔色は…、相当お悪いようだ。絵を急いで仕上げなくては」

画家が帰ったあと、へたばって椅子にぐったり横たわっているオスカル。

ですが、アンドレの足音を聞くと、さっと立ち上がって何事もないような顔を取り繕います。

この二人はお互いに相手のことを死ぬほど心配するわりには、

自分のことを隠して、平気で嘘をつく。

アンドレはオスカルに訊きます。

「オスカル…。何か俺に隠していることがあるだろう?」

「いや、別に何も?」

じっとアンドレはオスカルの目をのぞき込むように見つめます。

「そうか? ただ俺は知っておきたいんだ。お前のことなら何でも」

う~~ん、こういうセリフどうなんでしょうかね。

私がオスカルだったら、ちょっと強引で嫌かもね。

束縛が強すぎてちょっとストーカーっぽいかなぁ。

だけど、まぁ、それほどオスカルの状態が尋常じゃなかったってことなんでしょう。

さて、七月に入って、パリには10万の軍隊が入り込み、

どこもかしかも兵隊であふれています。

パリとベルサイユを結ぶ道は軍隊によって分断され、

市民の集会は中止され、夜間の出歩きなどを制限され、

さながらパリは戒厳令が敷かれたような状態となっています。

さらに悪いことに、一挙にパリに10万の軍隊が押し寄せたため、

パリの街は食料不足になり、人々は飢えていました。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

ここにきて、さらにネッケルは国王に国民議会を早急に開くことを強く懇願しました。

しかし、貴族側は国王の尊厳ことが第一だとして、

ネッケルの進言を退け、あまつさえ、彼を財務長官の職を罷免したのです。

ここに市民の怒りは一気に高まり、パリのあちこちで暴動が起きるのです。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

ベルナールたち、平民の代表はこう叫んで民衆を鼓舞します。

「これは愛国者に対する弾圧だ!

国王は軍隊を派遣して俺たちを皆殺しにしようとしている!

それならば、俺たちも立ち上がろう!

やられっぱなしになっていてはいけない。

祖国の子らよ!誇りをもって立ち上がろう!

武器をもって立ち上がるときがきたのだ!」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

そうです。今まで黙って蹂躙されるだけ蹂躙されてきた

貧しいものたち。

民衆は自分たちのために立ち上がらなければならないのです。

それを複雑な思いで見つめているオスカル。

彼女は最後の懇願をしにアントワネットのもとを訪ねます。

オスカルは血の涙を流すように王妃に説得します。

「アントワネット様、なにとぞ、なにとぞ軍隊にパリ市街からの撤退をお出しください!

どうあろうと王室と国民が殺し合うことになってはなりません」

凍り付いた空気が二人の間を流れていく…。

昔はあんなにもお互いを分かり合えた仲だったのに。

オスカルは何度も何度もこれまで自分の身を挺して私を守り、仕えてきてくれた。けれど…。

今、同じ場所にいながら、こころはこんなにも遠く離れてしまった。

「オスカル…。もしそうなったら、あなた、私を守ってくださいますか?」

「……私はもはや近衛を辞めた身でございます……」

ふたりはぽろぽろと涙を流す。

「軍をお引きください!王后陛下!…王妃様。

自分の国の民に銃を向けてはなりません」

「それは…できません。オスカル。」

もはやこれまで、とオスカルは諦め、涙を流しながら王妃に一礼して立ち去る。

オスカルの背中越しにアントワネットは声をかける。

「なぜ涙が…。まるでもうこれっきり会えないみたいに。オスカル!」

アニメのオスカルもアントワネットも壮絶なまでに美しい。

見ていて痛いほど、悲しいふたりの気持ちが伝わってきます。

しかし二人はこれっきり会えないことを心の中ではわかっていました。

そしてふたりとも呟くのです。「ごきげんよう、Au revoir (オルヴォワール)」と。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

さて、七月のある日、オスカルは主治医のラソンヌを訪問する。

オスカルはラソンヌにこう告げる。

「覚悟はできています、先生。真実を述べてください。自分のことははっきりと知っておきたい」

ラソンヌは空とぼけてこう答える。

「風邪が長引いておあれるようですが、別に心配はありません」

「血を吐きました…。これまで何度も…。

胸をやられているのはわかっています。

私が知りたいのは、あとどれほど生きられるのかということです」

ラソンヌは白を切りとおすことができないことが分かって観念する。

「結核は治らん病気ではない。

いい空気とおたやかな環境で自然と治った例は私はいくつも知っていますよ」

ラソンヌは励ますようにオスカルに言う。

「先生、私とて死にたくはありません。

しかし、いずれその日が来るのなら、精いっぱいに生きたいのです。

自由に、そしてあるがままに」

自由に、そしてあるがままとは今のオスカルにとってどういうことを指しているのでしょうか。

意味深長です。

ラソンヌは諦めたように言います。

「今すぐ、軍をお辞めになり、静かなご領地へお帰りください。何も考えず、仕事もなさらず、

ただひたすら日の光を浴びて神のご加護をお待ちください。

このままでは長くともあと半年のお命でございます」

オスカルはラソンヌの言葉を冷静に受け取りました。

ところがラソンヌは意外なことをオスカルにいいます。

「オスカル様、アンドレの具合はいかがでしょうか?

このところ私を訪ねて来ませんので、心配なのです。」

オスカルはびくりとしてラソンヌを振り返った。

「アンドレ?アンドレの具合?」

「え? アンドレはご主人のあなたに話していなかったのですか?」

みるみるオスカルの顔色が変わった。

「どういうことです? 話してください! 先生!」

「アンドレ・グランディエが失明するのは時間の問題です!」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

さて、パリは殺気だっていました。

町中に武装した市民があふれています。

フランス衛兵隊のオスカルが指揮するB中隊とはまた別の

A中隊に出動命令がでました。

そのため、今まで市内巡回していたB中隊は待機せよとのこと。

ダグー大佐は昨年妻を結核で亡くしていたので、

 同じ症状を見せるオスカルの具合を密かに心配していました。

大佐はオスカルに出動命令が出る間は自宅で身体を休めることを勧めます。

オスカルも本当に疲れていたので、家に帰ることにしたのです。

そのとき、オスカルの脳裏にひらめいたことがありました。

アンドレを司令官室へ呼びました。

そのとき、オスカルはいつも着席している椅子の傍の壁に寄り添って立っていました。

ですが、入室したアンドレはオスカルが椅子に着席していないことも、

壁際に立っていることもわからなかったのです。

本当にアンドレがほとんど見えていないことにオスカルは愕然となりました。

「アンドレ…。お前にはもう私すら見えないのか…」

 ですが、オスカルは兵舎に帰ろうとするアンドレを偶然を装って、

入口で待ち受け、そしてこう告げます。

「今日は勤務はない…。命令待ちだ。一緒に屋敷に帰ろう」

しかし、オスカルの胸中を知らないアンドレは、珍しいことをいうものだな、と思いながらも

やはり、あまり一緒にいるところを人には見られたくないので断ります。

「命令まちならば、俺はみんなと一緒にここに」

いつもなら、ことさらに体が接触することを頑なに拒んでいたのに、

あろうことかオスカルは、アンドレの右手を両手で包み込み、

アンドレの顔をのぞき込むように見上げて、かすかに媚を含んだ声でそっとこういいます。

「供をして欲しい、たまには。屋敷までの道はもうひとりでは物騒だからな」

どうしたんだろう?最近こんな風にオスカルが俺に甘えてきたことはなかったのに。

敏感なアンドレは、オスカルの微妙な心の揺れを推し量ろうとします。

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

屋敷へ帰ったとき、画家が以前から描いていた例の肖像画が仕上がったので、

お披露目にきていました。

その絵は、オスカルを軍神マルスの姿に扮装させて馬上でポーズをとっていました。

出来栄えのすばらしさにみんなため息をついています。

ジャルジェ将軍などは非常に喜んでこういいます。

「よくできている!まるでそこにオスカルがもうひとりいるようだ」

ですが、アンドレはひとり戸口に佇んで、入ってこようとしません。

遠くからアンドレを見つめるオスカル。

わずかな視力でオスカルを見ているアンドレ。

ふたりの視線と視線は静かに絡まり合っていきます。

お互いに相手を気遣いながら…。

(この二人はね、もう視線で抱き合っているよね。

視線で言葉にならない感情を会話してるの。)

アンドレはもはや、絵の中に描かれているオスカルの輪郭や形など

はっきり見えないのです。

もうわずかに不明瞭にぼんやりと色がわかるくらい。

辛そうに絵をひたすら見入るアンドレ。

(この静止画をお描きになったのは、姫野美智さんなんでしょうか?

 作品中の一連の静止画は見るに堪えないです。動画がすばらしすぎるので

 よけいインパクトがひどいです。)

オスカルはそういうアンドレにどう声をてかけていいのかわかりません。

でもアンドレはこの無言の静寂に耐えかねてでたらめな感想を言ってしまいます。

「美しい、たとえようもなく。輝くお前の顔がこの世の光をすべてその身に集めているかのようだ…。

特にお前のブロンドの髪に置かれた月桂樹の冠が鮮やかで…」

(こういうすぐバレてしまう嘘っぱちを言ってしまうアンドレってどうなのかな、

と私はイマイチ頭をひねるのですが…)

それを聞いているオスカルはアンドレが可哀そうで可哀そうで涙があふれて止まりません。

心の中でこうつぶやいていました。

「アンドレ、無理をしなくてよい。お前の目が見えないのはわかっている。

その絵の私は月桂樹の冠などかぶってはいない…」

しかし、どうしたことか、アンドレは次々と見えてないことが丸わかり発言をするのです。

「白い薔薇が、ひとつ、ふたつ…。いや、野原一面に…。どこの森だろう?

そうか! いつか行ったアラスの泉あたりかな? そうだよな、オスカル?」

アンドレは自分の心に描いたイメージを言っていることにオスカルは気が付きました。

ああ、アンドレはそんな風に私のことを見ているんだと。

オスカルもアンドレに合わせます。

「そうだよ、アンドレ。画家のアルマンはわざわざアラスまで行ってスケッチをしてきたと

言っていた…。」

「すばらしい絵だ。お前の優しさ、気高さ、そして喜びまでもすべてが表現されている…。

忘れない、俺は。この絵に描かれたお前の美しさを。決して忘れないよ」

実は西洋人の中でも金髪というのはかなり珍しいのです。

さらにいいますとふつうのフランス人はガリア人の末裔なので、

めったにブロンドの人はいません。

ブロンドの髪を持っているだけで称賛の的です。

私たちがよく見かけるブロンドの外人さんはたいていブロンドに染めているのです。

ですから、そういうオスカルの天然の金髪てすごく珍しいんですよね。

ブロンドの髪ってものすごく細いのだけど、それだけに髪の本数がふつうの人の何倍もあるのだそうです。

かてて加えて、オスカルみたいにふんわり天然のウェーブがかかっていたりする人は本当に少ない。

たぶん、オスカルは領地がアラスだったりするので、ノルマン貴族の血が濃く出たのか、

あるいは近い先祖に北欧出身の人がいたんでしょう。だから長身でもあるわけです。

アンドレはそんなオスカルの美貌にのみ惚れたわけではく、

それ以上に オスカルのやさしさ、気高さを愛していました。

それこそが本当の彼女の美質であり、オスカルがオスカル足らしめる理由だからです。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

そうこうしているうちに、夕暮れが近づいてきました。

そこへ、フランス衛兵隊のダグー大佐の遣いとして、アランたち衛兵隊員三人が

オスカルの屋敷へ早馬を駆けてやってきます。

いよいよ出動命令が出されました!

オスカルはアランに言います。

「出たか!ついに」

「そういうことであります」

アランも妙に神妙です。

「先に隊に戻ってくれ。すぐに後を追う」

発動の命令にオスカルの軍人スイッチが入ります。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

早速、アンドレが馬舎で馬に馬具をつけて出発の用意をしていると、

そこへジャルジェ将軍が現れました。

緊張するアンドレ。ジャルジェ将軍には、オスカルと自分との間に

ただの主従関係ではない、愛人関係にあると疑われているのです。

それは半分当たっていて、半分外れています。

アンドレは、いまやオスカルが自分を愛してくれているのはわかっていました。

しかし、いつぞやのように男女の関係を強いたりすることは決してすまいと

心に決めていました。オスカルが幸せなら、そしてそれを彼女が望むなら

このままの関係で満足するつもりだったのです。

ジャルジェ将軍はアンドレに言います。

「アンドレ、明日出撃するそうだな。私も明日か明後日か、いずれ出撃する。

万にひとつ、お前とは今日限りということもありうる」

「はい」

アンドレは将軍の話の展開が自分の予想していたものと違うことに少し驚きました。

「ひとことだけ、私の気持ちを伝えておきたい。

もし、お前が貴族ならば、私は間違いなくお前とオスカルの結婚を許していたろう。

いや、心からの祝福を送っていたはずだ。

死ぬなよ、アンドレ。必ず戻ってこい!」

なんということ。思ってもいなかった言葉にアンドレの胸は熱くなりました。

まるで実の父親が息子に語り掛けているかのようです。

「もちろんです。旦那様」

ジャルジェ将軍はあれからたぶん、いろんなことを考えたでしょう。

幼少のとき、自分はオスカルがあまりに優れた子供だったから

本当に息子なんだと信じてしまっていた。だから、息子の相手をさせるために

やはり容貌も優れ聡明なアンドレを従者に選んだのだ。

あのとき、自分が血迷って娘の従者に異性のアンドレを選んでしまったことが

そもそも常識はずれで、今日の原因をつくったものとだったのだと。

娘にすぐれた若者の従者をつけたなら、今日のことも簡単に予想がつくはずだった。

オスカルの性格を考えれば、アンドレは好ましく映るはずだから。

お互いに相思相愛になる可能性は十分にあったのだと。

パパはオスカルがアンドレを愛して、通じていたとしても

それは不問にするつもりなんでしょう。

あまりにも二人が不憫だから。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

日も沈みかけた頃、オスカルとアンドレの二人は早足で衛兵隊本部へと

向かっていました。しかしそこで、アンバリッド(廃兵院)に向かう暴徒と

鉢合わせしてしまうのです。

暴徒たちはふたりを王宮の兵隊であると知り、武器を奪い取ろうと襲い掛かってきました。

大勢でかかられては命がありません。

ふたりはそばを流れている川に飛び込み、対岸へ渡ろうとしました。

ところが、暴徒たちは持っている棍棒や農具などをふたりめがけて投げつけて来るのです。

アンドレが運悪く背後から投げられた丸太が頭に当たり、失神してしまいます。

アンドレもたずなはしっかりと握っていたとはいえ、意識がなくなって

馬から落ちそうになっています。

オスカルは必死になってアンドレの馬を引き寄せ、対岸を駆け上り、森の中へ逃げ込みました。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

いろいろと迂回路を探すものの、あちこちで暴徒たちが集まって

これから来るだろう闘いに向けてお互いを鼓舞しています。

オスカルもアンドレもびしょ濡れで、あまつさえ、アンドレはアタマを切って、血を流していました。

「大丈夫か、アンドレ?頭の傷は?」

「ああ、どうということはない」

アンドレは心配するオスカルを気遣い、気丈に答えます。

オスカルは思い切っていいます。

「よくも今まで私を騙し続けていたな」

「え?」

「右目のことだ。ラソンヌ先生に聞いた。もうほとんど見えないんだろ?」

アンドレは沈黙します。

オスカルはこんなアンドレを連れていくことは不可能だ、と思い直します。

「やはりもう一度、屋敷に戻ろう。明日のパリ出動にお前を連れて

行くわけには行かない。お前をばあやに返し、私だけ宿舎に戻る」

オスカルはさらにアンドレに近づいて懇願しました。

「そうしてくれ、アンドレ。お前に万一のことがあってはいけない」

ですが、アンドレはほとんど見えなくなった瞳を潤ませてオスカルをじっと見つめていいます。

「俺は行くよ、オスカル。今までもそうだったが、これからもそうだ。

俺はいつもお前と共にある…」

それを聞いたオスカルの瞳はみるみる涙が溢れだします。

これって、クリスチャンじゃない人はなじみがないだろうけど、

ミサのとき、必ず「平和の挨拶」っていうのがあって、

司祭が会衆に「主はあなたと共に」といい、

会衆がみんなで「司祭と共に」と賛同する箇所があるのです。

これは旧約聖書にある「神は常にあなたと供にある」という箇所も連想させるのです。

人は知ることが出来ないし、見ることが出来ないけれど、

いつもいつも神によって愛され、神によって護られているという意味です。

アンドレはこれまで、衛兵隊に入隊するときに「自分は大工のせがれだ」と偽っていっていたり、

ベルナールに左目をつぶされたときも、いきり立つオスカルに「俺は彼を赦す」いっていたりして、

どこかキリストを連想させるところがあったのです。

なんでかな?と思っていたのですがここにきて、それらの伏線の意味が分かりました。

これにピンと来れば、オスカルの涙が分かります。

これは、アンドレがオスカルに生涯無償の愛を捧げるよ、と言ったのです。

それがどんなに自分にとってつらい選択だとしても、君のたましいに寄り添うよ、と。

そのとたん、オスカルの中の今まで自分の心を覆っていた、女であることを否定していた

固い殻が融けてしまったのです。

アンドレの深い愛によって。

ああ、ここでもアンドレは安易に「愛している」なんて言っていませんね。

でも、それ以上に深い言葉です。

オスカルはアンドレの言葉で、自分にかけられた呪縛を解かれ、

本来あるべきはずの自分に戻っているのです。

ポロポロ泣きながらオスカルはアンドレに尋ねます。

「アンドレ! 私はかってフェルゼンを愛した。お前に愛されているのを知りながらも

フェルゼンを愛した…。そんな私でも愛してくれるのか?」

アンドレは静かに微笑してこういいます。

「すべてを。いのちある限り」

オスカルはたまらなくなってアンドレの胸に縋りつき、

その胸に顔を押し当てて、今まで面と向かっては言えなかった言葉をいうのです。

「あ、アンドレ。アンドレ! 愛しています、私も。心から」

アンドレは自分の胸にあてられたオスカルの手をそっと握っていいます。

「わかっていたよ、そんなこと。もう何年も前から。いや、この世に生を受けるずっと前から」

そうやって、オスカルの身体をアンドレの腕が包み込みそして、ふたりは森の中で愛を交わすのです。

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ロマンティックな箇所なんですが、

これには、もうひとつ、製作者側の意図があるように思いますね。

つまり、彼らはもう実はヘトヘトなんですよ。

オスカルは身体が悪いのに、三部会が荒れているときずっと

雨の中で何時間も濡れて立っていたりして、

短期間で病状がものすごく悪化させています。

アンドレだって、目が悪くなって、そのせいで怪我をしています。

しかも、ふたりとも、びしょ濡れだしね。

もちろん、彼らはもともとお互い好きだったんだけど、それをいうチャンスがなかったから

今、この場所で抱き合ったんでしょうけど、

これって、なんかある意味、愛の抱擁とは違う側面があると思う。

セックスすることによって、自分たちのパワーを補給したというか、

もっと人間の根源的な本能に突き動かされているように思える。

そう、もうふたりとも体力・気力の限界で、理性でもっとお互い静かに

長時間オハナシなんかしていられる状況じゃないんです。

もう野獣みたいに猛々しく吠えながら抱き合わってでもいないと

神経がおかしくなりそうなんですよ、たぶん。

もちろん、そこに愛はあるだろうけど。

いや、ふたりは今まで禁欲的だっただけ、余計に激しく抱き合ったような気がする。

どういうんでしょうか。わたしの好きな坂東真砂子的な、生への執着みたいなものを

呼び覚ますために、抱き合っているような気さえします。

途中、オスカルの横顔が描かれているんだけど、

官能に酔っているというわけでもなく、

女っぽい嬌態を作っているわけでもなく、

もちろん原作のように涙をながしているわけでもなく、

妙に冴え冴えとした表情でほんの少し微笑しながら、空を見つめているんですよ。

ものすごく満足そうな感じで。

抱き合って絶頂に達することは、自己破壊です。

なぜなら、それは必ず二人で行うものであって、エクスタシーに登りつめるその瞬間の痴態を

見つめられていても構わないぐらい自分を拡大して解放しなければならないものだから。

でも、それは誰でもいい訳ではなくて、本当に愛する人とだけ。

その相手を信頼していなければ決して達することができないもの。

恥ずかしいからとか、それを相手に見られるのがいや、と言っていたら、絶対に登りつめられない。

だけど、そういう羞恥心や理性を吹っ飛ばし、

一度自分の自我を破壊することによって

また、新たな自分を再創造させる力がセックスにはある。

この二人は心がつながっているから、容易にそういう状態になれたでしょう。

それゆえの満足感のような気がする。美しいオスカル。

だからこの時、オスカルは無理やり親に押し付けられてゆがませてしまった

本来の自分の中のアニマとアニムスを統合できたんだと思う。

そしてモノローグでこうつぶやくんですよね。

「アンドレ・グランディエ。あなたがいれば私も生きていける。いえ、生きていきたい」

す、すごいね。もう完全に女じゃん。

「いや」じゃなくて「いえ」に言葉変わっちゃてるもんね。すでに。

お前呼ばわりしなくなったし。

オスカルはこの時、たぶん、この出撃が終わったら、

軍隊を辞めて、アンドレと一緒にアラスに行って療養に専念しようと思ったんでしょう。

なぜなら、少しでも長くアンドレと一緒に生きていきたいから。

自分が女として生きることに意義が見いだせたから。

そして失明する彼のかわりに自分が彼の目になるつもりでいただろうから。

なんだか、少女漫画という枠を超えた深い洞察がこの話にはあるような気がします。

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その後のシーンは馬を走らせて、連隊本部へ馬を走らせる二人のツーショット。

オスカルもアンドレも抱擁からパワーをもらって、力強くなっている。

しかもオスカルの表情は、さっきまでの恐らく激かった抱擁を全く感じさせない、

吹っ切れたような、何もかも拭い去った表情をしている。

それがかえってふたりの愛の濃さを感じる。

そしてわずかながらアンドレが先に馬を走らせている。

今までは常にイニシアティブをとるのはオスカルのほうだったのにね。

彼女はいまや、夫になったアンドレへ無意識にイニシアティブを譲っている。

もうオスカルは貴族の身分を捨てただろうし、今までのように男の振りをした女でもない。

ただ、ひとりの女性で、軍隊のエキスパートであるというだけ。

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すごいな~。野外でエッチ。(笑)

でも原作はね~。あのシーンは子供の頃読んだ時ですら、「これはないわ!」と思いました。

だってさ、男以上に男らしいオスカル様が「こわい…」ですよ。

え~、この歳で、「こわい」はないだろうと。すんごいカマトトと思いましたもん。

ただ、もう一度原作をよくよく読むと、オスカルの「こわい」って言っている意味がわかる気がする。

だって、アンドレ怖いんだもん、マジで。(笑)

まさに狼に食べられる羊、まんまじゃん!

 やはり、アニメは深い。「愛している」の連発もないし。

変なポエムもない。

非常に説得力があるし、力強い脚本だと思いました。

結ばれた晩は河の周りにはたくさんの蛍が飛び交って幻想的な演出になっています。

ただ、これは単なる耽美的な効果というよりも、

今、愛し合っている男女と河の周りに飛び交う蛍は

「死との親和性」で繋がっていることを暗示しているように思えます。

ふたりは知らないけれど、その翌日にアンドレは死ぬんです。オスカルもその翌々日には死ぬ。

蛍もカゲロウのように儚い命。

彼らはすぐに死ぬ運命だけど、だからといって恐れず、

今ある命の限りを尽くして美しい光を放っているんですね。

何度見ても泣けるわ。


革命の予感    出崎統の『ベルサイユのばら』4 [シリーズで考える深い考察]

 今回はちょっと難しいよ!

フランス革命ってややこしいね。佐藤賢一の『小説フランス革命』読まなきゃな~(笑)

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革命前夜

まあ、このように、荒くれものの隊員たちを相手に、日夜奮闘していた姫です。

しかし、ここでオスカルは貴族の子弟ばかりが所属していた近衛隊では

自分が考えることも想像することさえできない

貧しい人たちのリアルな生活の実態をここ、フランス衛兵隊でつぶさに観察することになります。

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今の時代の日本で例えますと、オスカルは江戸時代は大名だった華族の家系で

父親が官庁に勤める高官の、しかもすごい財産をもつ家の息子と考えてみてください。

幼稚園から高校までは、慶應で、毎日毎日、黒塗りのベンツで通っていた。

将来はハーバードかオックスブリッジあたりに留学しようか、と考えいたし、周りも

それを嘱望していたけれど、自分の国を守りたい、という強い意識があって、

防衛大学校へ入る決心をし、みごと主席で入学、卒業。

そして、若くして昇級試験にも合格して一佐にもなることができた、みたいな?

一方で、家が貧しくて高校へ進学することもできない少年がいたとする。

とりあえず、中学は野球部で鍛えた体があるから根性と体力には自信がある。

給料ももらえるなら、家族の家計も潤うし、

それにいろいろと資格も取らせてもらえるみたいだからって、

自衛隊へ入る人間もいるじゃないですか。

(しかし、こういう少年は貧しいかもしれないけど、かなり優秀な子だと申し上げておきます)

おんなじ軍隊(自衛隊は軍隊じゃないかもしれないけど)にいたとしても

この差は歴然でしょ?

将校と兵卒は近いようですごく遠い存在です。

お互いに知ろうとしなかったら、絶対にわからないはずです。

それぐらいの差がオスカルとアランたちにはある。

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オスカルは大貴族の令嬢ですので、お金に無頓着というか、無関心なところがありました。

だからフランス衛兵隊の兵卒の給料は、

家族をまともに養えないほど薄給であることを初めて知るのです。

家族が病気になったりすると、もうその給料だけではカバーできない。

ですから、軍規を破って、見つかれば銃殺になるかもしれないけれど、

こっそり銃や剣や制服を売ったりする人間もいるのです。

それが見つかって、憲兵に引っ立てられていったのを、なんとかコネをてこにして

無罪にしてもらったり、もう本当にいろんな問題を解決するために

東奔西走していて大変なオスカル。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

ですから、はじめのうちは隊員たちは喰うために苦労をしたことのない、

貴族のオスカルを憎みました。のほほんと生きていると思われていたのです。

あるときなど、仲間を憲兵に引き渡したと誤解され、アランに殺されそうになったりもしました。

でも少しずつ、この荒くれどもも、すこし貴族にしては風変わりな女隊長の実力と

的確な判断力、やはり優しいというか、温情のある態度に感じ入って、

さながらヤクザの姐さんとその手下どもみたいな固い絆が生まれたのです!

下手に傲慢でケーハクな貴族のうらなり将校より、うちの隊長さんのほうが話は分かるし、

―いや、はじめはわからなくてもあの人はわかろうと努力してくれるのよ―

もちろんうらなり将校どもみたいに威張り散らさない。

だけどよ、剣の腕前はアランと並び立つほどだし、

いざとなったら、命をかけて俺たちを守ってくれる懐の深い人さ。

男も女も関係ねぇよ。

ああ、好きだよ。ああいう気持ちいい人ならね。

おお、素晴らしい。男道、貫いたじゃん!

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ここまでの道は大変なものでしたが。

ですが、オスカルはそもそも、こんなに粉骨砕身して働いている兵卒の給料が

安すぎるというシステム自体がそもそも間違っていると思うようになるのです。

そういういきさつから、世論だけでなく、自分が肌を通して体感した経験から

オスカルは世の中は新しい構造改革が必要だ、と確信するようになるのでした。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

さて。

そんな中で、フランスの財政は破綻し、二進も三進もいかなくなる。

世の中では、例の首飾り事件で評判が地に落ちた王妃の

浪費の仕業だ!ということになっていますが、

本当の原因はルイ14世が、この壮大なヴェルサイユ宮殿を建設したこと、

それに続き、享楽的な摂政時代、そしてルイ15世自身も奢侈を好み、浪費家だったことなどが

重なりあって今日まで来た結果です。

それに加えて、やはりアメリカの独立戦争に介入したのがものすごく祟っていたようです。

では、その膨大な借金をどうやって埋めるかを決めるのが問題なわけですが、

まず、スイス人でブルジョワのネッケルが財務長官となり、

王室に緊縮財政を提言しますが、あんまり危機感をもっていなかった王室は

ネッケルを罷免。

しかし、後任のカロンヌ、ロメニーが特権階級から税金を取り立てようとしたのですが

あえなく失敗。

仕方がないので、再びネッケルを財務長官に就けるのですが、

ネッケルはこれではいつまでも埒が明かないと思ったのでしょうか、

三部会の招集を条件として就任をしたのでした。

三部会が開かれたのは1789年、5月4日。

これがフランス革命の直接の原因と言われているところです。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

あ~、難しいですね。思わず、息子の高校の世界史の副読本を広げて

お勉強してしまいました。

話はアニメに戻ります。

オスカル率いるフランス衛兵隊は、

三部会が開かれる会場および周囲の警備を任せられていたのでした。

ですが、三部会はまったく話が進まず、ず~っと膠着状態が続いていたのです。

イライラしているパリ市民はいつ暴動を起こすかわからない、

そんな一触即発の緊張状態が続いていました。

三部会が開かれて一か月半も経とうとしていましたが、

フランス衛兵隊もずっと休みなく警備についていました。

オスカルは、ともすれば、尊大にふるまって市民の逆鱗に触れる行いをする貴族に目を光らせていて

ホッとする暇もありません。

そんなある日、オスカルは何か不快なものが自分の胸からこみあげるのを感じます。

思わず口に手を当てて咳すると、手袋が血で汚れているのを見てしまう!

オスカルはなんと喀血してしまった。

オスカルはフランス衛兵隊でのストレスとあまりの激務に体を壊してしまったていたのでした。

一方、アンドレは前々から残された片目の視力が悪くなっているのは感じていましたが、

ここへきて、ひどく視界が狭まっていることに非常な不安を抱いていました。

もしかしたら、オレはもうすぐ失明する…!

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

アランはどんなことでも見逃しません。

彼はオスカルの顔色があまりに悪いのをみて、

「隊長、大丈夫なんかね。あの顔色の悪さはちょっと気になる」とつぶやく。

アランはまた、アンドレの目がだんだんと悪くなっているのも気がついていました。、

隊長にアンドレを心配させて心の負担をかけないように、アンドレの面倒をみてかばってやる。

黒い雨雲に包まれたような緊迫した空気に包まれています。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

そんな中、平民・貴族もどちらも妥協点が見つからない三部会を

実質的に解散させようという動きが起こる。

既得権益を絶対に放したくない、貴族たち。

彼らは絶対に自分の財産から税金を払いたくないのです。

それでいて、食うや食わずの貧しい平民から税を巻き上げることに

なんの良心の呵責も感じない。

それは無慈悲なのではなくて、無関心だからです。貧しい人たちの涙を

想像したことがないからです。

彼らは気の弱いルイ16世に圧力をかけて、三部会会場を閉鎖させようとします.

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

そして現場責任者のジャルジェ准将ことオスカルに命令が下る。

「三部会の入口を閉鎖せよですと?」

アンドレとアランを従えて、ブイエ将軍の命令に驚くオスカル。

「うむ、直ちに全部の入口を閉鎖するのだ。これは国王陛下のご命令だ!」

軍は国王を頂点とした上意下達が基本中の基本。

上官に口答えなど、本来なら許される行為ではないのですが。

「しかし、それでは議員たちが入れないでははりませんか!」

「さよう、三部会は事実上、休会せねばならぬ」

「それはおかしい!三部会の開会・閉会は三部会の三部会による決議で行われるはずのもの!

いかに国王陛下のご命令でも…」

イライラしながらオスカルの話を遮るブイエ将軍。

「だから、閉鎖せよと言っておる。陛下は解散せよとはおっしゃってはおられぬ。

命令を伝えたぞ、ジャルジェ准将。閉鎖はなるべく頑丈に。ネコの子一匹入れてはいかん」

「お言葉ですが、ブイエ将軍閣下。彼ら議員はフランスが選挙で選んだ正当な代表です。

そのようなことは彼らに対する侮辱以外の何物でもありません」

なんとか三部会が成功してほしいオスカルは必死です。

「陛下あっての国民だ! 陛下あっての議員。そして我々貴族だ! 違うかね、ジャルジェ准将?」

しかし、それならどうしてただいま、王室の、国家の喫緊の危機というときに

貴族たちは己の権益だけを守ろうとして汲々としているのか?

こんなときこそ、私財を投げ出してお救いするのが貴族の本来の姿ではないのか?

オスカルの心のうちは、怒りと悲しみでいっぱいになっています。

「しかし、閣下!」

「やめたまえ、オスカル! 私は議論するために君を呼んだのではない。命令を伝えるためだ。

よいか!議場を閉鎖するのは君でも私でもない、陛下のご意志だ」

ブイエ将軍はオスカルを黙らせる。

やはりジェルジェ准将、優秀といっても所詮女。木を見て森を見ない。

多分平民出身の隊員を見て情にほだされたのだろうが、馬鹿者め。

今は多少の犠牲を払っても国王を中心とする国体の護持のほうが大事なのだ…。

愚民どもをのさばらせておいて、このフランスの繁栄はありえない。

場合によっては肉を切って骨を断つという荒業も必要なのがわからんか。

ブイエ将軍はアタマから足の先まで旧体制の人間ですから、

オスカルの気持ちなどわかるはずもありません。

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

納得のいかない理不尽な命令に気が滅入るオスカル。

アランとアンドレを前につい弱音を吐いてしまう。

「ハァ…。どうしたもんかな…。アンドレ、アラン?」

アランは励ますようにオスカルに言う。

「考えるこたぁねえよ、隊長! 命令されたんだ。仕方ねぇよ。ただし

奴らが汚ねぇ手を使えば使うほど、俺たち平民は燃えるってわけさ」

オスカルはこのときほど自分が貴族であることを恥じたことはなかった。

重い疲労感が体をめぐります…。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

そうやって、現場責任者としてこころならずも入口を全部閉鎖。

しかし、やはりこんな措置も

市民の強い抵抗に遭い、ただの時間稼ぎにしかすぎなくなった。

やむをえず、入口を一つだけ解放して、三部会は続行されることになる。

ブイエ将軍はすでにオスカルを危険人物だとみなしていた。

いずれ造反することは必須。

窮余の策として将軍はオスカルのもとにラボーム大佐を派遣した。

ラボーム大佐は案の定決して平民議員を入口へ通そうとはしない。

ラボーム大佐は、ひとりひとり議員の名前を読み上げ、確認したあと会議場へ通した。

だが、いつまでたっても平民議員の名は読み上げられない…。

業を煮やしたオスカルは大佐に喰ってかかる。

「ショワズィエ・ラボーム大佐! なぜ平民議員を後まわしにするんだ?」

「命令です。正面玄関から入れるのは僧侶と貴族だけ。平民議員は裏口へ回すよう言われている」

「なんだって? ラボーム大佐! 君には見えないのか?

ずぶぬれになりながらじぃっと待っているこの人たちを!」

正義感の強いオスカルは怒気を込めて大佐に抗議した。

「私は命令された通りにやっているだけだよ、ジャルジェ准将。

君だってこの間、命令された通り扉を閉鎖したじゃないか?」

一本気で短気なオスカルはラボーム大佐の胸ぐらをつかみかかる。

そのとき、背後から男の声がした。

「やめたまえ!」それは平民議員として参加しているロベスピエール。

「やめたまえ、ジャルジェ君。僕らは濡れることなどなんとも思わないし、

雨など少しも冷たくはない。それに僕らの情熱はいくら雨に打たれても消えはしない。

国民に選ばれてここにあるという誇りはどんな侮辱にも、どんな仕打ちにも揺るぎはしない!

だが、ここで一つだけはっきり言っておこう!

僕らは犬でも物乞いでもない。だから決して裏口にはまわることはないだろう」

それを聞いてせせら笑うラボーム大佐。

「聞いたか? ジャルジェ准将? 奴らは好きで雨の中にいるんだ!

私の責任ではない」

それを聞いて、オスカルは逆上してしまう。

えいっとばかりにラボーム大佐を背負い、階段の下へ投げ飛ばします。

すごい、オスカル。鬼神のように強い!

そして、周りにいる隊員にこう命令します。

「衛兵隊諸君!すぐに正面の扉をすべて開き、

議員の方々を会場にご案内しろ!」

女に投げ飛ばされたラボーム大佐は、屈辱に目を血走らせてオスカルに詰め寄ります。

「ジャルジェ准将!君はブイエ将軍の命令を破るつもりなのか?」

ふんとバカにしたように尊大な笑みを浮かべてオスカルも応酬します。

「そんな気はありませんよ、ラボーム大佐。落ち着いてあの群衆を見たまえ!

これ以上の雨の中で待たせたら、暴動が起きる。私は警備の責任者として

不慮の大事緒が起こらないよう、処置をしただけだ」

さすが、オスカルもさるものですね。彼女は三部会会場およびその周辺の治安維持の責任者です。

その立場を利用して、こんなことも言えるわけです。

ラボーム大佐のような組織で動く人間にはこういう詭弁が一番効く。目には目を歯には歯を。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

このようにやっと再開されたが、議会は荒れに荒れ、収集がつかなくなっていた。

これでは国王の尊厳が蝕まれると、貴族たちは国王に三部会の解散を命じるように要請します。

決断力の弱い国王は、貴族たちにいわれるまま、解散を宣告する。

だが、主に平民議員だけで集まった国民議会派の議員たちは

三部会会場の退場を拒むのです。

そんな会場の警備をしているところに、先だってオスカルに投げ飛ばされた

ラボーム大佐がブイエ将軍の命令を伝えに来た。

命令とは、ジャルジェ准将率いるフランス衛兵隊B中隊全員、

ベルサイユの陸軍司令官室へ出頭というものでした。

馬から降りて、オスカルが司令官室へ赴こうとしていたとき、

何か変だと感づいたアランは、アンドレにオスカルの供をするように促す。

司令官室へふたりで入ろうとすると、アンドレは入口で引き止められ、

オスカルだけが司令官室へ入るよう促された。

不安を抱えながら、戸口で待つアンドレ。

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ブイエ将軍は、オスカル率いるフランス衛兵隊B中隊の会議場の非常警備の任を解き、

新たな命令を出します。

それはすなわち、B中隊は、新たに完全武装し、

会議場に居座る国民議会派の議員を

国王陛下の命令に背いた謀反人として排除するというものでした。

なお、排除を拒むものは理由の如何によらず、居座るものを撤去し、

場合によっては発砲して、死に至らしめることもやむならず、という内容です!

 これは、ブイエ将軍が思いついた、オスカルに対する最後の踏み絵。

あくまでも貴族として、国王に仕える側の軍人としての忠誠を態度で示せるかどうか、

オスカルを試したのだ。

しかし、ブイエ将軍はほぼジャルジェ准将が革命思想に染まっている

異端分子だと確信していた。

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案の定、オスカルはその命令を受けることを拒否します。

ブイエ将軍は、オスカルの軍務証書を取り上げ、国王の裁きを待つ間、

陸軍特別房へ入れることを決定するのです。orz

そしてオスカルに代わって、陸軍最高司令官である将軍自らが

フランス衛兵隊B中隊の指揮を執るために、表へ出て行きます。

しかし、フランス衛兵隊B中隊中、アラン率いる12名は

自分たちに命令できるのは、オスカル以外にないとブイエ将軍の命令を断固拒否。

ここにきて、ブイエ将軍は、オスカルこそが獅子身中の虫であったことを悟る。

やはり将軍のカンは当たっていました。

彼女は大貴族でしかも父親が王宮に仕える将軍の娘で、

しかも、14歳からかたじけなくも王后陛下に長年仕えて来た身でありながら、

愚民どもの肩を持つ忘恩の輩。

また彼女には独特のカリスマ性があって、

平民出身の兵士の求心力となることもわかった。

そのため、以後の軍規の乱れを考慮して、

アランらを今後の見せしめに銃殺を求刑することを決断した。

また、会議場の国民議会派の議員の排除は近衛隊が出動することになった。

オスカルはそれを聞いて、戦慄する。

司令官室に軟禁されていたオスカルは外で待っていたアンドレに助けを求めて脱出し、

全速力でベルサイユの司令官本部からパリの会議場へと向かう。

何としても、近衛から国民議会派議員の命を守らなくては!

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

一方、ジェローデルが連隊長として率いる近衛隊は

国民議会派の議員たちに議会から出ていくよう警告していました。

もし、ここから撤去しない場合は、国王陛下の謀反人として扱わねばならず、

発砲することも許されているのですとジェローデルは紳士的かつ平和的な解決をしようと努めていた。

そこへ貴族でありながら、国民議会派に与しているラファイエット侯爵率いる

議員たちは、剣を抜いて近衛隊の前に立ちはだかり、平民議員を守ろうとしていた。

しかし、またもやお互い膠着状態になり、あわや命令どおりに発砲もやむを得ずというところで、

オスカルとアンドレはその現場へ駆けつけることができたのです。

オスカルは近衛隊を前にして叫ぶ。

「君たちは私を貫ける勇気があるか?

彼らに発砲するというのなら、まず私の屍を超えてゆけ!」と両手を大きく広げた。

近衛隊士たちは敬愛してきた元連隊長のあまりの気迫にたじたじとなり、

どうしても弓を弾くことが出来ない。

ジェローデルは「マドモアゼル、どうして私があなたを貫くことができましょう。

あなたの前で武器を持っていないものに発砲するという卑怯者になることができるでしょう?

あなたのためになら、私も謀反人になることを辞しません」と去っていく。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

一方、ジャルジェ将軍は国王と陸軍参謀たちに召喚されて

オスカルの謀反の罪を追及されていた。

将軍たちは一様に、

「オスカル・フランソワの謀反は

国王陛下に対する大逆罪である。

そして、謀反人を出したジャルジェ家も同等の処分を受けるべし。

ジャルジェ家は領地没収の上、身分剥奪、

オスカル・フランソワも身分剥奪の上、国外追放処分が相当である」

と詰め寄られていた。

父、ジャルジェ将軍はそのような処分は不要です。

王室あってのジャルジェ家です。

まずは、国王に背いた娘は私が成敗し、

国王にお詫び申し上げる、と将軍たちにいう。

(江戸時代の士みたいね…)

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

オスカルはこうなった以上、もはやどこへも逃げもかくれもしないと考え、

潔く自宅にアンドレを連れて戻ってきた。

ジャルジェ将軍から自室に来い、とお召しがあった。

オスカルは父の書斎へと向かう。

ジャルジェ将軍は恐ろしい形相で「オスカル、そこに座れ」と命令する。

「オスカル、父がこの手で成敗してやる。

いかなることがあろうと、陛下に忠誠を尽くすのがジャルジェ家の伝統。

謀反人を出したとあってはもはやこれまで。

安心しろ、お前を神のもとに送り届け、すぐにわしも行くわ」と叫ぶ。

だが、オスカルは父の本心を見抜いていた。

「ならばなおさらのこと、私は御成敗を受ける訳にはいきません」

将軍は謀反人とはいえ娘が可哀そうでならない。涙ぐみながら

「優しいことを言う。だが、もはやこれまでだ!」

将軍がオスカルの背後から剣を振り下ろそうとしたまさにそのとき、

アンドレが止めに入る。

「おやめください!」

「ええい、放せ、放さぬか!アンドレ!」

「放しません。オスカル様をお斬りになるというのなら、この手永遠に放しません!」

だが、アンドレは将軍の手を放し、一歩下がった。

 なんと驚いたことにアンドレは銃の引き金に手をかけていた。

「どうしてもとおっしゃるなら、あなたを撃ち、オスカルを連れて逃げます!」

驚く将軍。

だが、その瞬間、最近のふたりの間に漂う

異常な緊張状態の訳を一瞬にして悟ったのでした。

もしかして、このふたりは男と女の関係にあるのか?

「馬鹿者! それがお前の気持ちか?」

「貴族との結婚には国王陛下の許可がいる!」

「教えてください。 貴族とは、平民とは何ですか? 人はみな平等です。

人を愛するのに、たとえ国王陛下といえども、他人の許可がいるのでしょうか?」

うわ~、すごいことを言うアンドレ!

これはまさしく「フランス人権宣言」そのものです!

だが、国王に絶対の忠誠心を捧げている将軍は、このアンドレの言葉に激高する。

この発言は国王の神性を冒涜した不敬罪にも値する暴言だと。

将軍は信じています。

人間は平等ではない、人間の分は神によって定められている。

その神聖な秩序を急進的で無知蒙昧な輩が冒涜している。

アンドレもそのひとりだったとは。

そうか、こんな思想に染まってしまったから、娘は、オスカルは謀反人になったのだ。

危険思想に染まってしまったオスカルも赦せないが、

従僕のくせに主をそそのかしたアンドレはなおさら赦せない!

「赦せん!ふたりとも! 一緒に成敗してくれる!」

アンドレはひるむことなくこう言い放つ。

「では私をまず先に。一瞬とはいえ、私が後では私が愛する人の死を見ることになる…。

それはあまりにも悲しい…。」

この時の、アンドレの上目遣いの昏~い目。しかし、妙にエロい。(笑)

アンドレのあまりの度胸のよさ、大胆さに、オスカルは目を見張る。

彼は普段、自分の考えていることを口にするような男ではないのです。

だが、こんなにも自分に強い矜持をもっていたとは!

彼は自分が愛する人に愛を乞おうなどとはつゆ思っていない。

人は薔薇が美しく咲き誇っているのを愛でる以外に、何を薔薇に求めるだろうか―。

薔薇はただ無心に美しあればいい。

アンドレの自分へのあまりにも深い愛を目の前で示されて、オスカルは瞬きすることもできない。

「よし、いい覚悟だ、そこになおれ!」

と、そのとき、ベルサイユの王宮からの急使が。

使いは王后陛下からのもので、

オスカルおよび、ジャルジェ家に対して一切のおとがめなし、というものだった。

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その後、オスカルは一計を案じ、パリのベルナールのところへ

アベイ牢獄にとらえられている、アランたちを救出する作戦を依頼しに行く。

ベルナールに演説してもらって、市民を3000人以上、アベイ牢獄に集めてほしいというもの。

ベルナールは人を集めることはできるが、そんなことでどうして救出することができるのか、

とオスカルに問いただすのです。

オスカルは、こう答えます。

「私は自分がパリ市街の治安の責任を持つフランス衛兵隊の隊長だ。

もし、パリの治安が危険だと判断すれば、12名の釈放を国王に要請できるからだ」

ベルナールはオスカルの知略に感心する。

「君のような知恵者が我々の陣営にもいればな…」

果たして、オスカルの作戦は成功し、ベルナールは3000人どころか、

三万人をアベイ牢獄に集めることができた。

国王の臨席を賜った参謀室で将軍たちは苦悩する。

「これは罠です!こいつらを釈放すればますます市民は増長します!

赦してはなりません!」

だが決断できないルイ16世。

そこへアントワネットがやってくる。

「さあ、すぐに12人を釈放しなさい!それがなんだというのです。

12人を釈放しないで、この美しいパリが火の海になってもいいというのですか!」

鶴の一声。

アランたちの釈放は決まった!

また、アニメのアランたちがアベイ牢獄から釈放されるシーンが渋くてかっこいいのです。

牢獄の入口でアランたちを騎乗にて待ち受けるオスカル。

アランは隊長をみて「よお、隊長!」と声をかける。

アランは確信していました。

この釈放はほぼ間違いなく、隊長が裏からあらゆる手を尽くしてくれた結果であると。

オスカルはいいます。

「アラン、この釈放は私の力でも、ましてやベルナールの力でもない。

これはな、民衆の力だ!」

「隊長、あんたもどうやら、世の中ってもんをわかってきたようだな」

へへと笑いながらオスカルを見上げる。

そこで、二人はガチッと握手する。

この握手のシーンはしびれる.。絵が決まっています。

この日は6月30日。バスティーユ陥落の日の二週間前だった…。

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う~ん、『原作クラッシャー』出崎節が炸裂していますね!

結果は原作と一緒だったとしても、その動機が全然違います。

すごい迫力!何回みても感動しますね!

アンドレはただのイエスマンではありません。

原作はオスカルが将軍に成敗されそうになって彼女を救出したあと、

オスカルに「愛している」と告げられるのですが、アニメのオスカルは終始無言です。

意外だと思われるかもしれませんが、今までアンドレがオスカルに直接「愛している」と

言ったのは一回きりです。出崎アニメは、言葉の重さというのを重視しているように思えます。

アンドレは人間はどんな生まれであっても、みな等しく平等なのだと信じる

新しい時代をさきがける人間だったのです。

オスカルは、アンドレのことをある意味ずっと愛してきました。

しかしそれは、男女の愛ではないのです。

兄に対する愛、というか、あるいはもうちょっと濃やかな愛だとは思うけど、

男女の道に入っているのをためらっているオスカル。

さあ、その高い壁をどう飛び越えるのでしょう?


フランス衛兵隊で     出崎統の『ベルサイユのばら3 [シリーズで考える深い考察]

なんか感想が実況中継みたいになってきました。

でも、もういいんだ! 読みたい方だけ読んでください。(爆)

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予測していましたが、あまりにハードなフランス衛兵隊の幕開け。

黙ってオスカルを心配そうに見守るアンドレ。

アンドレはオスカルとは全く関係ないつてを頼って、自分の意志で入隊したのだから

表面的には新任の隊長とは初対面ということになっています。

だから、あの大変な隊員とのバトルにも一切介入せず、

ただの傍観者という立場をとっています。(原作はちがいます)

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疲れ切って、帰ってきたところに、来客の知らせが。

姫の帰りを待って、何時間も待っているという。

誰だろう、と不思議に思いながら、客間にいくと、

そこには、軍服ではなく、どういうわけか盛装したかつての近衛隊の部下、ジェローデルが。

昔馴染みのジェントルマンの部下の顔をみると、ほっとして懐かしさで顔がほころびます。

なんといっても、彼と姫は毎日毎日、17年間も一緒に働いてきた仲なのですから。

ジェローデルとは、そもそも近衛に入隊するとき、決闘して以来

いろんなことを力を合わせて解決してきました。

ある意味、ジェローデルのほうがアンドレよりも密接なつきあいをしてきたかもしれません。

「ジェローデル!なにか困ったことでも近衛で起きたのか?」と尋ねる姫。

「久しぶりだ、なにかワインでも…?おい、ばあや!」

オスカルはジェローデルが訪ねてきてれたことに喜びを隠しきれません。

しかし、ジェローデルは「いいえ、今日はあなたのご尊顔を拝することだけできて

大変うれしゅうございました。それではまた」

とイミフなことを言って帰っていきます。

あいつはどうしたんだ、一体。何しに来たんだろう?と不思議がるオスカル。

姫は一緒に戸口に立って見送っているばあやに尋ねます。

「ばあや、彼は一体何しにきたの?」

「ジェローデルさまは、旦那様にお嬢様をいただきたいと、と申し込みにこられたのです。

そして、旦那様も、それはいい話だ、ぜひ決めてみたい!とおっしゃられて…」

それを聞いて茫然自失してしまう姫。

一難去って、また一難。

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ここまできて、心底わたくし、姫に同情いたします。

姫はね、もう32歳なの!

パパもね、結婚させようと思ったんだったら、もっと早く、早く、ハタチになるまでに言ってよ!

当時、貴族の娘は16か17歳で嫁に行くのが相場だったんですのよ。

二十歳過ぎたら、立派な行き遅れなのよ!

なんでこの歳になってこんなバツの悪い思いをしなければならないのか。

そういう縁談のお話は今のオスカルにとってはものすごく残酷だわ。

しかもね、彼女は今でも自分が女である、ってことに罪悪感をもっているからね、

急に父親に「女になれ」なんて言われたら、パニックになっちゃうでしょ?

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オスカルが自宅で腰を抜かしそうになるほど、びっくりして

怒りながら泣きたいのを我慢して、鏡に向かって高笑いをしているとき、

一方、衛兵隊の宿舎では、アンドレが新任の女隊長の従僕だったことが判明。

オスカルがアンドレを司令官室で問いただしていた内容が漏れ聞こえていた様子。

アンドレは、女隊長のスパイなんだ、密告者なんだ、という噂が広まってしまいます。

それと同時にアンドレはオスカルの縁談の話を聞かされます。

絶望のどん底に落ちるアンドレ。

運の悪いときには、さらに運の悪いことが待ち受けていまして、

オスカルに叩きのめされた男が、報復してやろうとアンドレを待ち構えていたのでした!

五人の男に囲まれて殴るけるの暴行を受ける。いわゆるリンチってやつですかね。

軍隊という男ばっかりの世界は、一種異様な世界なので、

適度にケンカをして、ガス抜きをさせる必要があるのかもしれませんが。

しかしね、一対一ならまだしも。

それでも、彼は意外と腕っぷしも強く果敢に応戦しますが、なんといっても多勢に無勢。

半殺しの目にあってぼこぼこにされてしまいます。

しかし、アランがその騒ぎに気が付き、荒くれどもを牽制する。

ここら辺の下りは、なんていいうの、すごく男っぽい感覚で、

やはり、監督が男だからか、なんだか雰囲気は少年漫画です。

大勢でひとりをやっつける卑怯で陰湿なケンカはアランがもっとも嫌うところ。

アンドレはな、オレの大事なダチなんだよ、お前ら。

今度アンドレをボコったらおれが承知しないからな、と睨みを利かせる。

半殺しにされて、伸びているアンドレを介抱しようとして近づいたアラン。

しかし、アンドレは失神していたけど、うわごとをいって、泣いていた。

「やめてくれオスカル。結婚なんて…」

ふとアランが部屋の入口をみると、オスカルが毒でも盛られたような顔をして茫然と立ち尽くしていた。

アランは、アンドレに問いかけるように見せかけてオスカルに言う。

「なんでぇ、アンドレ。こんな男みたいな女のどこがいいんだい?」

言い返すことが出来ないオスカル。

アランはきつい一瞥をオスカルにくれると、

「アンドレはあんたに命懸けだ。こいつの手当てはあんたがするんだな」

と棘の含んだ笑いを残して去っていく。

しかし、オスカルは結局、アンドレの介抱をすることなく、

そのままほったらかしにして、家路につくため、衛兵隊の門を出た。

なんと衛兵隊の門の外には、ジェローデルがオスカルを待っていた。

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ジェローデル

姫はアンドレのことが本当は心配で心配でならないし、

誰も見ていないところだったら、絶対にかいがいしく介抱してやっていたでしょう。

本人は無自覚かもしれないけど、本当はアンドレのことを愛してるんだから。

だが、あの荒くれたちの中でそんなことをしたら、

今後の示しがつかないし、自分の統率力にも影響が出てしまう。

それは、これからあの衛兵隊で生きていこうと決心した自分の誓いを破ることになってしまう。

それになにより、自分がアンドレに無用に介入するとえこひいきしたことにもなるから、

余計にアンドレのためにもならない。

また、リンチに会うかもしれない。

(原作ってアンドレはジャルジェ将軍の命令を受けて、

オスカル専属の従卒ということで入隊するけれど、

アニメはただの一兵卒として入隊しているわけだから、

ちょっと立場が違うんですよね。)

心を鬼にして、帰途についた姫には

ジェローデルの愛の告白なんか全く耳に入ってこない。

原作のジェローデルは貴族らしい傲慢な自信家でそれはそれでかっこいいんですが、

こういう朴訥でナイーブなジェローデルも、なかなか好青年です。

ジェロ様は姫がやたらと落ち込んでいるのに、気が付いていないのか、ひたすらとうとうと

自分の胸のうちを語るのです。

「愛しています」「こんな陳腐な言葉しかいえない自分がもどかしい」とか

「何か一言おっしゃってください」とか。

それどころじゃない姫。全くのガン無視。

「ああ、風が胸の中を吹き抜けていく…。」ああ、ジェロ様哀しい。

そして「もし、私が貴族などというしちめんどくさい家柄でなければ、

あなたの従僕でも馬丁にでもなってみせるのに…」

と最悪のタイミングでちょっぴりアンドレへの嫉妬発言をしてしまった。

それまでは、一言も口をきかなくても、それでも礼儀として仕方なく

ジェロと一緒に馬を並べていた姫ですが、そこでピタと馬を止める

そして、ヤケに静かで落ち着いた声でこう言います。

「貴族である以上、従僕のことを言う資格はない。あなたも、私にも」

ことさら、静かに言うときって、オスカルがめちゃっくちゃ怒っているときなんですよね。

(オスカルは静かに怒っているときが妙に色っぽい人なのです。)

アンドレの苦悩を知っている姫は、ジェロの発言が赦せない。

そして、ふとこう思ったでしょう。

アンドレは、ジェローデルと比べても資質的にもなんら劣っていない。

ただ、アンドレは平民だ。それだけで貴族の私には正式なプロポーズができない、

あのジェローデルが父上に堂々と結婚の申し込みをしたようには―。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

もう、オスカルは縁談の話は嫌で嫌でたまらなかったのですが、

パパの将軍のほうでも、姫が衛兵隊に移ったあたりで、

急に娘に何か大変なことが起こったことを察知し、心配するのだ。

武芸に優れているとか、学識が高い聡明な子だといっても

なんといっても娘は女。平和なときなら、軍人も続けられるだろうが、

こんな物騒な世の中になったら、それも危ない…。

それに以前のオスカルは快活で、颯爽としていて、父親でも娘が女であることを忘れてしまうほど

完璧な武人ぶりだったけれど、ここにきて何か危うい翳のようなものが娘の表情に走るのを見る。

アンドレに問いただしても、

「オスカル様のことはわたくしめにはわかりかねます」とけんもほろろ…。

あんなに信頼の厚い、仲がいいといってもよいほどの主従だったのに、これはどういうことか?

どうなっているんだ、あの二人は? 不審に思うジャルジェ将軍。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

一方でジャルジェ将軍とブイエ将軍は旧知の中で、

しかも、ジャルジェ将軍より地位の高い参謀総長だった。

(原作のブイエ将軍はただの嫌味で料簡の狭くて、

女だからという理由で姫をいじめまくっていたセクハラオヤジだったけれど

ここでは清濁併せ呑むというか、酸いも甘いも噛み分けた人格者として描かれている)

陸軍最高司令官であるブイエ将軍もオスカルがフランス衛兵隊に移ったことにより、

確実に軍の士気が下がったことを懸念していた。

平和な時ならまだしも、暴動などが頻繁に起こる政情不穏な昨今、

どんな非常事態に陥るかわからない。

不測の事態に備えて、あらゆる軍隊の士気は高めておくに越したことはない。

軍の最高責任者として、不安材料は芽の内に摘み取っておかなくてはならない。

あのジャルジェ君の娘は、もう、使えんな―。

もともとブイエ将軍も、オスカルが女の身で軍人になったことを

あまりこころよく思ってなかったような気がする。

なんてったって軍隊ですからね。昔から戦争って、殺戮することが仕事なんだし、

それに常に略奪と強姦というのがつきもの。

ジャルジェ君もまあ立派な奴なんだが、少し酔狂がすぎるな、と思っていたかもしれないし。

しかし、旧友にそのことをずばり言ってしまうのは憚られのだが、

やはり意を決して本心を伝える。

「いや、オスカル君は並みの武官よりよほど優れていることは私にもわかっている。

だが、女だということで嫌がるものがいるのだよ。中には国王に手紙を出す連中もいるそうだ…。

軍隊はチームワークが大事なところだからな。どう思うね、ジャルジェ君」と思案顔。

それに対して、意外にもジャルジェ将軍はそのことを否定せず

「閣下、娘ももう武人としては、潮時だと考えております。

退官させて結婚させようかと、今縁談を進めているのです」すんなりと認める。

ブイエ将軍も、まあ、いっそのこと彼女が結婚してくれるのなら、一挙に問題解決。

それこそ一挙両得だ、善は急げと姫の結婚話にやる気満々。

いや、彼女は武人としても一流だったが、いや、すごい美人だったから、もったいないと思っていたよ!

ぜひともいい男と結婚して、幸せになってほしいもんだな! うん!

わたしの部下にも、オスカル君が惚れそうな優秀で男前なやつはいっぱいおるよ!

どうせ、こんなオヤジトークが炸裂していたに違いない。

ふたりして彼女の縁談話に躍起になるのだ。

ついに、ブイエ将軍主催でオスカルの婿がねを探すため大がかりな

舞踏会が開催されることになってしまった…。

オスカルに求婚したいベルサイユ中の貴公子を集めるという非常に悪趣味な趣旨。

…なんということを。可哀そう、オスカル。

拷問に近いよね。

パパは、オスカルに最後は泣き落としの手まで使う。(笑)

ある日、オスカルが衛兵隊から自宅に戻ってきたとき、パパの自室に呼ばれる。

姫はジェローデルとの縁談の話にはかなり頭に来ていたので、

断固として断らなければと思っていたのだ。

あんなKYなジェロなんかと結婚できるわけないだろう! ムカムカ。

「父上、ジェローデルとの話、あれはきっぱりとお断りください!

私には結婚する意志など全くありません」

パパいつもとどこか調子が違う。なぜか妙に猫なで声でなだめるように

「まあ、そういきり立つな。静かに話し合おうじゃないか」と仁王立ちになっている娘に椅子を勧める。

あっけにとられる姫。「はい…」

「衛兵隊では苦労しているようだな」

オスカルは、フンとばかりに嘲笑的な笑みを浮かべ、鼻っ柱の強いところを見せる。

「苦労? 私は苦労などとは思っておりません。

新任の体調が隊員たちの抵抗にあるのはどこの隊でも同じ。

逆に私にとっては励みになっているほどです。波風の少ない近衛よりよほど面白い」

う~~ん、姫、男街道驀進中みたいな答えですね。

しかし、パパもさるもの。うっとまさかの嗚咽!

「すまない!オスカル。父を赦せ。

お前を女として幸せに育て上げられなかった父を赦してくれ!

…こんなことは今更いえたことではないが、お前の本当の幸せを思うなら、

素直に、自然に女として…。わしの一生の失敗であった。いらぬ苦労をお前に…」

こういうふうに泣かれるのがオスカルは一番弱い。

さっきまでの気丈さはどこへやら、彼女本来の性質である優しい口調で父をなだめる。

「父上、ご安心を。私は父上が思っておられるほど、女を捨てて生きてきたわけではございません。

かつては燃えるような恋もいたしました。逆に私は父上に感謝しているのです。

男として育ったお蔭で私は何もかも忘れ、強く生きることができるからです」

もう、パパ!こんな恥ずかしいことまで言わせないでよ!って感じ。

でも、この時代、やはり女性の社会進出は制限されていたから、

オスカルの広く世の中を見分できた、という意見は正しいと思う。

「オスカル哀しいことを言わんでくれ。女として傷ついたのなら女として幸せになってほしい。

逃げ出したりしてはいかんよ、オスカル。男などといって自分をごまかしてはいかん。

お前は女なのだから。どこに出してもひけをとらぬほど美しい私の娘なのだから。とにかくお前は

今までの分まで幸せになってほしい。

ジェローデルが気に入らんのなら、もっと素晴らしい相手を探そう!

ブイエ将軍もお前のためならば、とおっしゃっておられる」

もう、何ですか?これは!みたいなセリフだよね。

でもね、オスカルがパパと向かって座っている姿勢なんて、

それこそ小さいころから厳しく仕込まれてきたまさに軍人の座り方なんだよね。

ピシっと背筋がのびて、顎をぐっと引いて、脚を開いて座るスタイル

貴族的な男らしい威厳みたいなものが身に沁みついているんだよね、

もう、これしかできない、って感じ。

こんな風に育てて今日まで生きてきて、

女らしく生きて、女の幸せ探せっていわれても、ねぇ?

だいたいにして涙を流す、っていうのがタチが悪い、と思う。

だけど、こうまで言われたら、オスカルは父親に抵抗できないんですよねぇ。

「いやだ!」と泣いてわめいてってのが出来ないんです。

姫はパパ思いなので、縁談の話を一蹴することができない。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

そんなうんざりするような計画が進行中のあるとき、パパとブイエ将軍が一緒に馬車に乗っていると、

テロリストのサン・ジュスト(!テロリストだったのか?!)が

参謀総長であるブイエ将軍を亡き者にしようと、馬車を狙撃する。

でも、撃たれたのはパパのほうだった。サン・ジュストはパパをブイエ将軍だと思ったのだ。

衛兵隊から知らせを受けて、急いで駆けつけて来た姫。

辛くも弾は心臓をそれていたので、

命の別状はありませんよ、とばあやから聞かされると

安心のあまり、みるみる双眸から涙があふれ、

床にへたり込んでどっと泣いてしまうのでした。

この頃の姫は、衛兵隊員になめられていかんと、

ことさらに高飛車にふるまっていて、毎日、毎日、緊張、緊張の連続なもんだから、

ひとつタガが緩んでしまうと、とめどもなく涙があふれて、嗚咽が出てしまう。

そこに一足早くお屋敷にたどり着いていたアンドレが

腰を屈めて、さりげなくそっとハンカチを泣き崩れている姫に手渡してくれるのです。

見惚れるほどやさしい笑みを浮かべて。

衛兵隊では、馴れ合っていると変に勘繰られてしまうので、

ことさら、お互いつっけんどんに他人行儀にふるまっているふたりですが、

ここは我が家、隊員たちはいません。

震える声で「ありがとう、アンドレ」と泣きながら言うのでした。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

結局、オスカルは重傷を負った父の懇願に負けて、ブイエ将軍主催の舞踏会に出席することを

約束させられるのです。

「父上を撃ったヤツ、必ずとらえてみせます!」

「そんなことより、オスカル。早くお前の花嫁姿が見たい」

もう、ほとんど恐喝ですよね。

まぁ、とにかくパパはオスカルに軍人をやめてほしいの一念なんでしょうね。

ジャルジェ将軍は、念には念を入れてアンドレにも

しっかり当日は姫の護衛をすることを頼むのを怠りませんでした。

「アンドレ、頼むぞ。オスカルの一世一代の晴れ姿を世の男どもに見せてやるのだ!」

アンドレも将軍の頼みは絶対ですので、守らなければなりません。

そして、当日。

司令官室へ迎えに行くアンドレ。

だが、オスカルの拒否にあう。

「オスカル、時間だ」

「まだ、早い」

「いや、一度お屋敷に戻って、仕度をしなくちゃいけないだろう?舞踏会の」

アンドレのその声には苦しみが混じっています。

いつぞや見たまばゆいばかりのドレスの姿。

それがオスカルの本来の姿。

しかし、自分のためには決して装うことのない姿…。

オスカルは旦那様のおいいつけには逆らえない…。

旦那様のためにしかるべきところに嫁ぐんだろう。

他の男のものになってしまっても、俺は黙ってみているしかないのか、オスカル!

それを考えると胸が張り裂けそうになります。

「アンドレ、供はよい。」

「だが、旦那様とお約束をした」

「いいのだ、アンドレ!お前はいかなくていい」

不機嫌そうに答えるオスカル。

戸口に立つアンドレをそこに残したまま、

オスカルはドアノブに手をかけ部屋出ていく間際にこう言い残す。

「アンドレ、私はそう簡単に嫁になど行かん」

アンドレは驚愕の表情を浮かべる。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

果たして舞踏会は、我こそはと思う男子ばかりがぞろぞろ。

みんなオスカルのドレス姿を見たくて興味津々。

なんだかみんなトロフィー・ワイフが欲しい連中ばかりのようですね。

ヤな感じ。

しかし、オスカルはドレスでもなく、礼服でもなく、いつもの軍服で会場に現れます。

「これは奇妙な舞踏会ですね!女性がひとりも出席されていない。あはははは」

それを見てジェローデルは苦笑い。

「全く連隊長らしい」

「失礼した。どうも私には場違いのようですので」と立ち去るのです。

いいですね!この演出。渋いです。

原作は、オスカルが男装の盛装をして、男どもをそっちのけにして

女の子たちと踊りまくるという、かなり百合がかかった設定でした。

わたし、こういう百合っぽいのは、ちょっと…なので。

かなりいい感じだったと思います。

だからといって、オスカルは決して、マッチョに見えない。

やはりどことなくフェミニンに映るのは、

田島令子さんの演技力と、画力のせいなんでしょう。

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最後にパパはオスカルに結婚させるのをあきらめる。

というのも、オスカルが本当に結婚するのを望んでいないのがわかったからだ。

パパはいつも男原理の考え方をして、一方的に女の幸せは結婚にある、と考えていたけれど

男として育てられ、軍人として今まで生きてきた娘には

それは当てはまらないと思い直したのだ。

しかし、それでも実はこの感受性の強い、優しい心根の娘に

これ以上の激務は耐えられないのではないか、と心配するのだった。

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今回も長いなぁ。次で終われたらいいんだけどな~。


孤独なたましい     出崎統の『ベルサイユのばら』2 [シリーズで考える深い考察]

前回の続きです.

物言わぬは腹ふくるる心地になるので、この際、書きたいことを全部書きます!

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さて。

後日、オスカルは最後の近衛隊の閲兵式のあと、

出口で馬を引いて待っていたアンドレに対してこういう。

「アンドレ、このあいだのことは別に怒っていない。しかし、記憶にも留めない」

精いっぱいの虚勢。

まざまざと頭の中ではあの出来事がフラッシュバックしているんですけどね。

男女の道に関して初心なオスカルには、あまりに刺激的な体験だったのでした。

急にアンドレが「男」に見えてくる。そしてちょっと恐れてもいる。

そして、武人の中の武人になろう、と心に決めた直後に、

相手がアンドレとはいえ、あんなふうに女々しく

人前で泣いてしまった自分が恥ずかしくて情けない。

アダルトチャイルドだった人は、こういう「恥ずかしい」という感情に

耐えられない。だれでも犯す失敗を、取り返しのつかない過失に思えて

必要以上に責めてしまう傾向にある。

そしてあの夜、アンドレがオスカルに「愛している」と告白したということは、

心理的に距離を置かれたと思っているオスカルのアンドレに対する認識を変えたんじゃないの?

確かにそうも言えますが、私は別なことを考えますね。

人って複雑で、「愛している」なんて言っても、

その言葉をいった本人が、本当にそう思っているかどうか分からない時があるものです。

アンドレが彼女をレイプしそうになったのも、

その場の雰囲気というか、勢いっていうのもあるのかもしれませんが、

好きだからという感情でやったとはいえないときだってあるでしょう?

反対に憎しみに駆られてレイプする、ってことも時にはあるかもしれない。

膠着したこのモヤモヤした関係を早く終わらせたい、終わりにしてしまいたい、という気持ちの

裏返しだったりすることもありますから。

オスカルは、アンドレが自分を好きだということを知っていながら、

それを無視して他の男に血道を上げていたことが赦せなくて報復したんじゃないか、とか。

アンドレはもうこんなダメな自分に愛想をつかして、

関係を終わりにしたいんだ、とか疑心暗鬼になっていったんじゃないかな。

また一方で、こうも考えられます。

オスカルはアンドレに抱きすくめられて、案外気持ちよかったんではないか。(笑)

一瞬にしろ、理性が吹っ飛んで、彼に体を任せてしまいたい衝動に駆られたのかも。

これはありえそう。だってこのふたりってカラダの相性もよさそうだもん。

しかし、そうするとオスカルはアンドレによって、本当の女になってしまって、

きっとさっき自分が目標にしていた「男街道」を突き進むことが出来ない。

女になるということは、今までの自分を否定することで、

さらに、常に誰かに支えてもらわなければ生きていけない人間になってしまうじゃないの。

とにかく、どんなときにも相反する理由がたくさんあるものなんですよ。

人間の気持ちは玉虫色だから。

こうまあ、いろいろと頭の中をグルグルといろんな思いがめぐっているはず。

総じて言えることは、この出来事によって

今までの二人の一応表面上だけでも良好ともいえる関係は壊れ、

何とも言えない緊張感が二人の間に横たわることになるのです。

つまり、これまでのように無条件でアンドレに甘えられる時代は終わっちゃったってこと。

悲しいねぇ。兄弟のように何でも腹を割って話せる唯一の人間だったのに…。

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そしてオスカルはお行儀がよくて品のよい近衛隊から、

あえてあらくればっかりの超がつくほど下品なフランス衛兵隊に移籍する。

原作では、王室の在り方にだんだん疑問を感じて、もっと庶民に近づきたいと思い、

衛兵隊に入ったみたいに描かれていますが、それはちょっときれいごと過ぎるような気がする。

フランス衛兵隊には、オスカルのように、エリートである士官学校出身者はほとんどおらず、

みな金のために入隊した乱暴者ばかり。

(原作では、アランは曲がりなりにも下級貴族の出で、士官学校出身ということにはなっていましたが、

アニメではどうなんかな?わかりません。)

なんだかみんな、読み書きすらできない、理屈をいってもわからない無教養な人間ばっかりのようです。

昔の獰猛なスイスの傭兵隊のようですね。

彼女は今の心の痛みを癒すには、こんな風に過酷な環境にわが身を置いて、

また新たな別の痛みを感じるしかない、と思っていたのかもしれない。

とにかく、忙しくして他のことを考える暇もないくらい働いたなら、

きっとこの苦しみから逃れられる…。

オスカルの抱えていた苦しみは何だろう。

フェルゼンへの失恋が一応原因みたいに描かれていますが、

それはいわば、表層的なものであって、単なるトリガーにすぎない。

根っこにはもっと奥深いものが横たわっていたはず。

どこか心にぽっかりと穴が開いているような、寂寞感。

どんなに頑張っても達成感を感じられない、虚無感…。

オスカルは今、非常に孤独を感じています。ですが、彼女は今のこんな自分が情けないと思う。

孤独を恐れるより、孤独に慣れてしまえばいいのだ、と。

私は最初からひとりで生きていた、と思えば辛くないはず。

しかし、オスカルは気づいていないね。

こんなに苦しいのは、アンドレのことが本当に好きだからなんだよ。

今まで愛してもらって当たり前、庇護してもらって当たり前、

その無償のやさしさにどっぷりつかって傲慢にふるまってきたけど、

ああいう風に自分が彼を拒絶した以上、どうできるだろう?

オスカルにとってフェルゼンは、いわば青春の夢。心の中のあこがれの具象なのです。

でも、本当はあまりに卑近すぎて気が付かないけど、アンドレのことを愛しているんだよね。

だけど、彼女は自己肯定力が弱くて、自分を女として存在することを自分で赦していないから、

どうしても男女の愛に進行するのを止揚してしまう。

…オスカル可哀そう。

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ですが、アンドレはオスカルが考えていたようなこととはまた別のことを考えています。

当然です。オスカルは一方的に被害妄想に陥っているだけだし。

アンドレは原作ではオスカルの父、ジャルジェ将軍に命じられて衛兵隊に入隊しますが、

アニメは自らの意志で、また自ら開拓したルートを経て入隊するのです。

アンドレは、オスカルと違って結構いろんな人脈を持っているし、

また、人の懐に入るすべを心得ていて、そういうパイプラインを作るのが上手い。

今度も、酒場で意気投合して仲良くなったアラン・ド・ソワソンの口利きによるものです。

アランは実質上、オスカルの赴任する衛兵隊で一番の猛者で、ナンバー1の位置にあります。

(ここがかなり原作とは違うところなのだけれど)

そして、フランス衛兵隊というところは、軍隊といえど、上官の命令が絶対というところではなく、

また別の、男の掟が幅を利かせているところでした。

そのドンがアランだったというわけです。

掟では、アランの命令が一番なのです。アランが諾といえば、いやでもやらなければならないし、

否といえば、それは否なのですよね。

彼は、また他の隊員のケンカやもめごとの調停役でもありまして、衛兵隊の影のフィクサーでもあります。

アンドレはそんなアランとはちょっとした特別な友情を育てることになりまして、

これから、何度となくアランに助けてもらうことになります。

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オスカルは生真面目な性格なので、赴任予定の一日前に衛兵隊に行って、

兵舎を視察に行く。

新しい将校の前にバカでかくてむさくるしい男どもがあたふたと整列する。

出崎さんは『あしたのジョー』の監督もしておられたそうで、

ここらへんにでてくる男どもは、はっきりいって少女漫画のレベルを超えています。

兵隊たちは、どこか丹下団平か力石徹みたいなマックスに凶悪そうな人相の

ごっついのばっかりで、しかもみんな40がらみみたいなやさぐれたのばっかり。(笑)

もう、オスカルもかなり長身なのでしょうけど、

彼らの中にいるとあまりに華奢でほっそりしすぎていて

どうしたって、男じゃないな、っていうのがビジュアルからわかってしまう。

こんな兵隊ヤクザみたいなところにきて大丈夫か?

ここにいる男たちって、他に行くところもなかったんだろうけど、

暴れたくて力を持て余しているようなそんな男たちです。

…とみている私のほうが不安になってくるのですが、

オスカルも度胸が据わっているというか、気丈ですね。

しかし、居並ぶ男たちの顔をひとりひとり確認していると、

思ってもいなかった男の顔を見てしまいます。

それはアンドレ。

オスカルは一瞬動揺して、目が泳いでしまいますが、

さすがに軍人、瞬時に冷静さを取り繕い、その場を去ります。

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オスカルは後で司令官室へアンドレを呼んで、責めます。

「どういうことだ、アンドレ? 私はもう供はするな、といったはずだぞ!」

「だから供ではないよ、オスカル。つてを頼って入隊しただけだ」

でも、最後にこういうのです。

「どんなことがあろうが、お前に何と思われようが、お前を守れるのは俺だけだ!」

なんという自信。なんという深い志。

ま、ひとつ間違うとストーカー行為?(笑)

おお!かっこいい。男らしい~。思わずオスカルも惚れ直してしまいますよね。

このときから、オスカルのアンドレへの気持ちも少しずつ外に向かって開放されていくような気がします。

とはいえ、人間の心は重層的で複雑なものですから、

これから男の中の男道へ進もうとするオスカルを阻むのも実際アンドレなんで

わずらわしさもかなり感じているのも事実。

そして、オスカルに反撃させる暇を与えず、軍隊式の敬礼をサラッと返して

「帰ります、隊長!」って去っていくんですよ。

この絶妙な間の取り加減。上手いです!

さすがのオスカルもアンドレが去って行ったあとで「勝手にしろ」と悪態をつくしかないんですよね。

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フランス衛兵隊

今までの近衛隊は、いいところのおぼっちゃまばっかりのところで、

すなわち、皆さま貴族の子息で、教育もあり、容姿端麗、眉目秀麗な方ばかり。

姫って実は、近衛隊に入るには2センチ身長が足りないんですけど、

そこは、ま、特例として認められたんじゃないかな?

だからね、部下も姫が女だから、ってことにあんまりこだわっていなかったんですよね。

皆さま、すごくジェントルマン。

ジャルジェ将軍のご令嬢で、ものすごくよくできる人みたいだよ、

おお、そうか~。さすが将軍の娘だけあって、女丈夫だな~ってな感じで。

実際、オスカルが近衛をやめるときも、ジェローデルをはじめ部下五人が彼女を

慰留しようとしていたし。みんないい人たち。

一転して、こんどはヘタにふるまったらレイプどころか、命まで危なさそうな衛兵隊。

副官のダグー大佐も内心「こんな上品できれいなお姉ちゃんのくるところじゃないのにな~」

とひやひやしていたことでしょう。

フランス衛兵隊っていったいどんな組織なんでしょうね?

ちょっとググってみたんだけど、よくわからない。

でも、原作を読んでいると、解説に La Garde Franceise とあり、

やはり、陸軍に所属している王宮を守護する一部隊なんだそうですね。

ベルサイユ駐屯所の部隊長っていうのが、オスカルの役職みたいです。

王宮のすぐそばにあったみたい。

だけど、なんかアニメ見ている限りにおいては、かなりベルサイユのオスカルの屋敷から

遠い感じがするんだけど? よくわからない。

本当だったら、大佐クラスになると、本当にエライので、

兵卒あたりが大佐殿なんかと直接口なんかきけないです。

そんなことしたら、軍曹あたりが、ガーンと銃で

「きさま、何様のつもりか!」って半殺しにされるくらいエライ。

さらにエライ准将のオスカルが、こんな兵卒に直接かかわっているはずもないんだけど。

だって、大佐の下には、中佐、少佐(これぐらいでもかなりエラい)

大尉、中尉、少尉(士官学校出身は少尉からスタート)あとは、軍曹とかまあ、下位の将校なんか

なんぼでもいるはずだしね。

ま、そういうこと考えてると先が進めなくなるから、先行きましょう。

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今の感覚でいえば、マグロ漁船とか、ダムの工事現場とか、なんかそんな感じ?

正式な初出勤の日、まあある程度予測できたことでしたが、

オスカルは先ほどもいったように准将というものすご~く高い身分の将校であるにもかかわらず、

B中隊全員に閲兵式をボイコットされてしまう。

「いくら准将かなんか知らんが、貴族の女の命令なんか聞けるかよ」

って感じでしょうか?

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オスカルはそれでもめげません。

ダグー大佐と一緒に、兵舎に行き、ドアを開けようとすると、

いきなりナイフが自分の顔の真横に飛んで、ドアの枠の柱に突き刺さります。

思わず、冷や汗を流すオスカル。

実は、隊員たちがドアにダーツの的を張って

短刀を投げて遊んでいたところだったのです。

投げていた凶暴な面相の隊員がシレっといいます。

「いけねぇや、隊長さん。入る時にはノックをしてもらわなきゃあ」

オスカルはその言葉に対して、柱に刺さった短刀を抜き取りながら近づき、

ヤクザの姐さん顔負けのドスの効いた迫力満点の声で応酬する。

「ドアをノックしろだと? そういう言葉はな、礼儀をわきまえているもののいうことだ!

閲兵式にも出て来ないで礼儀をわきまえているとは私には思えん!」

とその短刀を大男のズボンのバックルの間にグサッと刺し込みます。

…いきなりなにすんねん、この女?

大男、顔色が変わってひえっ~みたいな感じに。

オスカル様、男前すぎます!

「さあ!みんな! 服装を整えて練兵場へ来い! 閲兵式をやる!」

ですが、今までのやりとりをベッドの中でかったるそうに寝そべりながら聞いていたアランが

初めて口を利く。

「みんなイヤだっていってるんですよ。…近衛に戻っちゃいかがですか? ここには女隊長の命令を

聴くやつなんざいませんぜ?」

それを聞いて、アランのほうにキッと睨んだ姫のお顔が美しすぎ。

怒ってもきれいなのは、岩下志麻とヴィヴィアン・リーぐらいだと今まで思ってきましたが、

姫もその中に入れておきたいと思います。

「言いたいことがあるなら、ベッドから出て堂々と言え!ここは病院ではないぞ!」

「おっとこいつは失礼…。それで、ここは特に荒っぽいのが売り物のB中隊だ。

ケガさせちゃいけないからって、みんながね…」

アランの嫌味をふふんと受け流して姫はニヤリと笑いながら言う。

「断っておくが、わたしも荒っぽいのが嫌いじゃない。どのくらい諸君が荒っぽいのか見たいもんだな」

ちょっと見直したように目を見張るアラン。

ひとりの隊員がいきり立って叫ぶ。

「おう!おもしれー!みせてやろうじゃないか!」

「よし! じゃあ、話は決まりだ!腕に自信のあるものは練兵場に来い!銃でも剣でも構わんぞ!」

絶対に肉弾戦に持ち込みたくないオスカル。(笑)

しかし技には自信があります。上手いことやったな、と思います。

練兵場で隊員に囲まれるオスカル。

「いいか!私が勝てば閲兵式を行う! もし、私が負けたら、今すぐ隊を去る!」

と宣誓するオスカル。女といえど、軍人です。さすが。

そしてひとりのあらくれと戦いますが、あっけなく勝負がつく。姫の勝ち。

しかし、負けた男はオスカルの背後からすきをついて肉弾戦に持ち込もうと襲い掛かりますが、

オスカルの持っていた剣の鞘で急所を突かれ、どっと倒れる。

それを見た隊員たちは一気に殺気立ち、

みんなそれぞれに剣を抜いてオスカルに飛びかかろうとする。

しかし、アランの鶴の一声。

「おい、みんなやめろ! 約束は約束だ!閲兵式はやってやろうじゃないか。

ただしな隊長さん、みんながあんたを許したんだと思いあがっちゃ困る」

「わかっている」

「俺たちは、貴族やまして王宮を守るために軍隊に入ったんじゃねぇ。はっきりいって給料のためよ!

喰うためさ!そこんとこよくわきまえておいてくれ」

話のラストが閲兵式の場面。空が夕焼けに染まっています。

つまり、朝いちばんに閲兵式をやろうとして、邪魔されて、説得して、決闘して、

一日がかりだったということです。

ま、フランス衛兵隊一番の猛者でありボスであるアランは

手下と新しく赴任してきた貴族で鼻っ柱の強い女隊長を手合わせさせて、

その実力を検分し、一応「合格」としたのでした。あくまでも軍人としての資質だけだけどね。

はぁ、衛兵隊員にオスカルの全人格を認められる日は遠い…。

はぁ~、ご苦労さんですね~。


出崎統の『ベルサイユのばら』 イントロダクション [シリーズで考える深い考察]

まさにタイトル通り、はじめてアニメの『ベルサイユのばら』をはじめから最後まで

通して、一気に見ました。

去年からNHKのBSの水曜日に放映していたのをコツコツと貯め撮りしていたのです。

田島令子さんのオスカルの声が本当に素敵です!

フェミニンなのに、クール。

激高している時でも、声高に怒鳴るのでなく、自分の感情を制御して静かに話す。

凛々しいけれど、非常に上品な色気を醸し出しています。

まず、そこが非常に秀逸です!

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ということで、

感想は一言でいいますと「すご~~~い!」

原作をはるかに凌駕している!

いや、原作もすごくいいんですけどね、

これが、今から40年ぐらい昔に描かれていたってことが信じられないくらい。

そのくらい、このオスカル・フランソワっていう男装の麗人は傑出したキャラクターだと思います。

ですが、アニメはもっともっと感動しました!

なんでこんなに感動したんだろう?

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感動ついでに、ちょっとアニばらと原作の相違点を含めて、感想を書いていきたい思います。

ただ、今、原作を改めて読み返してみると、ちょっとな?と思うこともある。

① ちょっと百合っぽい。

② アンドレのキャラクターが弱く、オスカルの恋人になっていく過程に不自然さを感じる。

③ オスカルがわりとイデオロギーに固まった考え方をしていて、違和感を感じる。

④ ポエム的なセリフが多くて、恥ずかしい。

百合っぽいっていうのは、まぁ、読むのが女の子たち、っていうのを前提にしているからかな?

やっぱり昔のティーンの女の子にはいきなりマッチョな男の人との恋愛ってハードすぎて

ちょっと引くんじゃないかなと。

だから、こういう男装の麗人を配して疑似恋愛に持っていく、っていうのはわかるような気がする。

ロザリーとオスカルのやりとりって、

まさに読者がロザリーになってオスカル様と恋愛気分に浸っているような、そんな感じ。

そういう時のオスカルのジェンダーってちょっとなぁ~。なんかマッチョな気がして

私的にはちょっと…。

もしかしてオスカルって本当は男なんじゃない?と読んでいて心配になってきたりして。笑

かといって、アンドレといい仲になると、こんどは急にべた~っと女になってしまうわけで、

そこらへんが滑らかじゃないんだねぇ。

漫画の連載って、最初から最初まで全部書き上げて、それを推敲していくもんじゃないから

小説のように緻密なプロットがあるわけじゃない。

それに、読者の反応をうかがいながら作品を進めていくだろうから、

途中で変更されることも多々あるのだろうと思うんですね。

だから、アンドレは最初は本当にただの脇役に過ぎなかった。

あんまりイケメンに描かれていたわけでもなさそうだしね。

でも、黒い騎士になって彼が髪を切り、片目を失明したあたりで

急にかっこよくなるんだよね。

で、どういうわけか、オスカルの恋人にまで昇格してしまうんだな。

そこらへんがなんかな、読んでいてオスカルも胸を患って余命があまりないことを悟り、

自分の失態で彼の眼を失明させたのの罪悪感から、

せめて罪滅ぼしに彼の自分への恋心を成就させてやりたくて

そういう関係になってしまったんじゃないか?

みたいなお手軽感を覚えてしまう恋なのでした。

あと、池田理代子のネームって映画的というより、

やっぱり演劇的なんだよえ。だから宝塚でも上演されているんだし。

それに、宝塚のセリフってほとんど原作のネームを使ってるじゃん?

そういうのがいいと思う人は、たくさんいると思うけど、

スタイリッシュでキレのある映画のほうが好きな私は、

読んでいてかなりクドい、と感じて辟易するときもあるんだね。

もっと、絵でわからせろよ、みたいな?

とにかく多弁というか饒舌だよね。

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あと、オスカルの世の中の見方ってかなり理想っぽいっていうか。

特権階級である自分を責めすぎるように思える。

この間、マルセル・プルーストの『失われた時を求めて』を読んでいたとき、

主人公の親友であるサン・ルー侯爵がまさに、オスカルと同じ理想を掲げていて

岩波の解説には「上流貴族は苦労知らずゆえ、極端な社会主義論者に走る傾向がある」と

書かれてあった。

そしてまぁ、今でこそ民度も上がり、教育もそれなりに普及してきましたので、

フツーの市民が作った政府でも秩序ある世の中を形成して、市民は安穏と暮らすことが出来ます。

しかし過去に民度の低い時代というのは、確かに存在していたのですね。

理屈が通らない世の中です。平気で人殺しするとか、盗むとか、強姦するとか。

そういうのが、当たり前にまかり通る世の中って人々が安心して利益を生み出せない社会です。

ですから、秩序のある世の中を形成するために、王政が必要だった時代だってあったのです。

じゃあ、ベルばらの時代はどうだったのか?

革命後の恐怖政治を鑑みると、ちょっと時期尚早?

国王というのは、他国に侵略されず、自国を守るという義務もあるわけだし。

やはりね、「貴族」や「王族」は贅沢三昧するためだけに存在するわけじゃないんですよ。

また貴族は、「バルバロイ=戦う人」の末裔でありまして、

自分の領民が危機に陥ったときは、命を懸けて戦う矜持がある、っていうのが前提でした。

貴族は死ぬことを恐れてはいけない。

いわゆるノブリス・オブリジェですかね。

あながち、『王権神授説』っていうのもバカにしたもんじゃないんですよ。

ですから、原作のオスカルが「貴族とは恥ずかしいものだな」っていうのも

ちょっと一方的で浅いものの見方かなと。まあ、気持ちはわかるけど。

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まあ、フランス革命もそのまま、すんなりと成功して進んでいったわけでもなく、

その後、フランスの国力を盛り返すべく、強力な求心力を求めて、ナポレオンの帝政になり、

王政復古、また第二帝政、第三共和政と目まぐるしく変遷を続けていったのです。

フランスは本当にあの革命が成功していたのか、と考えるとちょっと疑問だったりします。

だから、どうしてオスカルが貴族で王室を守る立場の軍人から

革命のほうに傾倒していくのか、っていうのは原作から読むと、

世間知らずの理想主義者だったから、だと思うし、

アニメを見ている限りでは、やはり心情的に平民出身のアンドレに入れ込んでいるから、

自分も同列の人間になりたい、と思っていたのか。

イデオロギーとして理解している、というより、もっと情に絡んだ思いからのような気もしますね。

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どうでもいい話が長く続きましたね~。

アニメでした、そうアニメの話に戻りましょう。

序盤のほうをみている時分にははっきりいって

「なんかなぁ~。茶碗の中の嵐だよな~、こんなのつまらな~い」と思いながら見てたんですよ。

アニメのオスカルってこのとき、なんだか、顔も昔のマンガ風でダサいんですよね。

女版『巨人の星』みたいなもっさりした感じで。あんまり魅力感じなかった。

で、あ~、やっぱり昔見て良かった感じたこの作品も自分が大人になって改めて見てみると

感性が変わってしまうもんなんだね、と思っていたのです。

デュ・バリー夫人とアントワネットの女の闘いなんか全然面白くなかったんですもん。

それにね、オスカルって正論ばっかり振りかざして怒ってばっかりいるんだもん。

初回にジャルジェ将軍の話を立ち聞きしているんですけど、

それが、大雨の中、わざわざ屋敷の二階の桟をつたって聞いているのです。

まるで忍者かスパイのようだ!

思わず大笑いしてしまいました。

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ですが、全体の印象が19話から突然変わるのです!

そこから絵の雰囲気とか話の作り方が「あれ?」っていうくらい変わっちゃっう。

一気に登場人物のプロポーションが変わって大人っぽい印象なのですねぇ。

オスカルもすっごく大人っぽく、スレンダーになります。

そして凛々しいけれど、とてもフェミニン。クール・ビューティなのです。

原作のオスカルって、ともすれば行き過ぎなくらい、

男っぽいというか男以上にマッチョな表情していて

本当にこの人女なん?って違和感を覚えることが非常に多かった。

しかし、そんなオスカルに対してそれ以上に

周りの男性が肩幅が広く、胸が厚くたくましく描かれています。

こんな人たちに囲まれているとやはり、女性なんだな、って

ビジュアルから納得できてしまいます。

なんだろね、今の女優さんだったら、アナ・ムナグリスとかレベッカ・ホールみたいな感じかな。

決して百合のような雰囲気には持っていきたくない、監督の意志が感じられます。

表情もアンニュイな表情に変わりました。

特に目が。潤んで憂いがあるんです。そして、回を追うごとにオスカルが美しくなっていく。

見ていてドキドキするほどです。

あと、ひとつひとつのしぐさとか、ポーズが決まっていて、優雅さを感じさせましたね。

原作を下敷きにして、それから熟考を重ねたんだろうと思います。

オスカルが練兵場を高いヒールのついた長靴(ちょうか)で歩いてくるシーンなんて

美しすぎて何度巻き戻してみたことか! 笑

これ、途中で総監督が変わったせいなのだそうです。

ちらっと名前は聞いたことがあったんですが出崎統と言う方です。

キャラクター・デザインの担当の方は変わっていません。

ですが、長浜監督から出崎監督に代わっただけで、作品は全く別物になりました。

単なる少女漫画から、もっと広い視点の群像劇になったのです。

彼は、別名『原作クラッシャー』と言われるそうです。

つまり、話を換骨堕胎してしまって、別の意味を持たせる話に作り変えてしまう名人らしいのです。

でも、このアニメを見ている限りにおいていえば、それが偶然かどうか知りませんが、

非常にいい方向に作品が向上していると思えたんです。

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池田理代子さんという作家は、ともすると主要人物以外の脇役なんかを

話を進行させるために結構ぞんざいに扱ってしまう、という雑さが目立つのだけれど、

出崎監督はそういう雑に描かれがちな端々にいたる人にまで、

目を配って意味をもたらしているように思える。

オスカルとアンドレの恋愛が美しく描かれているのは当たり前ですが、

だからといって、名もない人たちだって

そういうふうにつましいながらも美しい恋愛を経験しているはずだし、

やはり愛する人と死別したりしたら、すごく悲しい。

その感情はみな同じはず。

そういうところが、非常に丁寧に描かれていました。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

さらに、このアニばらの秀逸なところは、出て来る登場人物、それぞれの細かい心理描写です。

特筆できるのがアンドレ!

アンドレってマンガ読んでいると、あまりにも都合よく描かれて過ぎていて

とにかく「オスカル、マンセー!」のオンパレードで

オスカル、綺麗、オスカル素晴らしい、オスカル、愛している、

としか言わない太鼓持ちみたいな、

あんまり頭良くない人(と言ったら言い過ぎか)な人みたいに見えるんですわ。

実はフェルゼンもそうなんだけど、このアンドレの人格のどこに

オスカルが惹かれたのか、よくわからない。

読者を納得させてくれるような、エピソードがあんまりないんですよ。

強いて言えば、オスカルの頼みはすべて叶えようとしているみたいな?

でも、そんな全許容型の人間って総じて魅力がないものなのですよねぇ?

人間ってたやすく得られないものにこそ、執着するものだし。

だけど、アニばらのアンドレはね、なかなかしたたかで、すごく頭の切れる人間に描かれている。

アニメをよく観察していると、フェルゼンに恋して自分に振り向こうとしないオスカルに対して

男の嫉妬からか、密かに捻りの効いた意地悪をしているところもあるしね。

原作には全く描かれていないし、アニメにはちょっとしたほのめかししかないけれど、

アンドレには二面性がある。例えば、プルーストの「失われた時を求めて」に出て来る

サン・ルーのような。

サン・ルーは表面だけを見ると、美しくて、清潔で、高貴でかつ、健康な精神の持ち主で

って描かれているけど、実はゲイであることを隠して、密かにほの暗い欲望を

ほの暗い方法で満たしている。

暗い情熱があるんですよ、実はアンドレにも。

彼はオスカルがつかみ切れていない、彼自身の世界がある。

そういう大人のほのめかしをアニメを見て感じました。

イメージとしてはそうだなぁ、クリムトの絵みたいな感じかな。

どちらかというと、その病んでる部分がフランス的というより、オーストリア的な気がしますね。

彼の病める部分がかなり色っぽくて、そういうところが

オスカルを捕らえて放さないんでしょうねぇ~。そんな気がする。

健康的過ぎる人って魅力的じゃないもの。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

アンドレとオスカルの仲というのは、

まぁ、小さいころから一緒に大きくなった幼馴染というか、アンドレの母方の祖母が

オスカルのうばやだったわけだから、いわゆる乳兄弟なわけですよね。

日本でも昔から主従関係にある家来がご主人様の子供の大切にお育てし、

一緒に育った乳兄弟がその後の若殿を盛り立てていく、っていうのはよくある話なのです。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

彼らの関係ってそればかりでなく、ちょっと総領冬実の『チェーザレ』に描かれている

チェーザレとミゲルの関係に似ているような気がする。

チェーザレはローマ法王にまで登りつめたアレッサンドロ6世こと

ロドリーゴ・ボルジアの庶子なんだけど、

将来、自分一代でボルジア帝国を終わりにせぬため、次の布石として

次男であるチェーザレを枢機卿にさせようともくろんでいた。

いくら、実力者の息子といえど、親の七光りだけで枢機卿になれるほど世の中は甘くない。

パパのロドリーゴが猛烈な教育パパで、現代の早期教育に励んでいる教育ママも

真っ青になるほど、すさまじい教育を幼いチェーザレに施すんですよ。

でもね、やっぱり家庭教師についてマンツーマンで勉強していても

張り合いがなかろう、っていうことで、

容姿端麗で、頭のキレがよく、かつ身体能力が優れた子供と一緒に競わせたようという、

パパの深謀遠慮のもと、はるばるバレンシアの孤児院から

ユダヤ貴族の孤児であるミゲルがもらわれてくるのよ。

こういう子飼いの家来は主君と同じぐらいのレベルの教養を身につけさせておければ、

将来、主君のナンバー2として家を盛り立てていけるし何より主君のよき相談相手になれるから、

という理由でね。

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これは私の想像なんだけど、オスカルパパも、女の子ばっかり5人も生まれた後、

最後の希望の男子出生の希望が潰えてしまった。

落胆した気持ちもあったんでしょう。六番目の女の子なんて対して可愛くもなかったんでしょう。

勢いで末娘にオスカルって名前をつけて男の子として育ててみる、という酔狂におよぶ。

結局、男の子が生まれないんで、しょうがないから自分が長年抱いてきた、

息子が生まれて来たらああしたい、こうしたい、っていう夢をむりやり娘に押し付けたんです。

女の子を男の恰好をさせて、男の子に仕立て上げて剣術を教えて、

男の子が学ばなければならない硬い学問を教えてみる。

それで溜飲を下げていたわけだけど、

本当はそこまで本気で男に仕立て上げるつもりはなかったんじゃないか、

と思うわけですよ。どうせ、ほんの幼児期のしばらくだけの間だ、みたいなね。

オスカルだって、本当は絶対に女の子の名前ももらっているはず。

オスカル・フランソワの前にジョゼ・マリーとか、ルイーズとか。

そうじゃないと、カトリック教会が黙っていませんからね。

でも、幸か不幸か、オスカル嬢ちゃんは、パパの身体能力の高さを強く受け継いだのか、

「これはもしかして?瓢箪から駒か」ってパパに期待させるものを持っていたんだろうねぇ。

賢い子供って時に、非常に残酷な目にあいますね。

きっとオスカルもそうだと思う。

彼女だって女の子。ふつうに育てばお人形さんやきれいなドレスに興味があるはず。

だけど、自分の好きなものを選ぼうとすると、なぜかパパのご機嫌が悪い。

かわりに兵隊で遊んだり、棒きれみたいな長いものを振り回したりすると、パパの機嫌がよい。

そんなふうに自分の感情を押し込んで我慢するクセが付いてしまったんでしょうねぇ。

で、さっきいっていたように、チェーザレ・ボルジアが父の枢機卿の教育方針に沿って

ミゲルをあてがわれたように

オスカルも、そういう意味でアンドレをあてがわれたんじゃないかな。

だから、アンドレも単に使用人のばあやの孫だからという単純な理由だけでなく

ジャルジェ将軍にそこそこその資質を見込まれて選ばれた子供だったんだと思うのね。

アンドレがジャルジェ家の来たころには、もしかしたらオーストリアとフランスの縁組の話もそろそろ

決まりかけていたかもしれないし、わが娘が将来お輿入れする皇女さまと同い歳なら、

やはり、士官学校に入れて、近衛士官にさせて、皇女さまつきのSPにさせたらどうだろう?と

オスカルパパの野望が膨らんだんじゃないかな~。

そうなると、やはりね、いずれ頭がよくて、機転が利いて、いざというとき、娘を守って助けてくれる

影武者的存在の男性が必要になるんですよねぇ。

それがアンドレ。

ちなみに、オスカルとアンドレ、という名前の付け方も面白い。実はアンドレって女の子にも

使える名前なんですよ。綴りはちがうけど。日本でいえば、「薫」とか「まこと」みたいな感じかな。

オスカルと言う名前は、ラテンでも使われるし、北欧はオスカルって名前の国王もいるよね。

まあ、全くもって男の名前なんです。そういうズレみたいなところがね、興味深い。

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さて、オスカル。

オスカルって何にも考えないでマンガとかアニメ見ていると、よく舞踏会やらなんやらのシーンで

人に称賛されていたり、常に話題の中心にいて華やかな存在に思えるっていうか

実際華やかな存在なんだけれど、実は彼女は本当の男じゃないし、

男どうしの本音の部分の会話は絶対に入れてもらえないはず。

かといって性別は女でも、いわゆガールズトークみたいな女の子女の子した輪にはいって

おしゃべりしあえるという存在でもないので、常に孤独なんですよね。

唯一、気が置けない存在で、リラックスして軽口のひとつでも叩けるのが

アンドレしかいないってことに気が付かないといけないんだなぁ。

そう、本当は実際生活においてアンドレは独りでも生きていけるし、その術も心得ているけれど、

絶対にオスカルはアンドレがいないと生きていけない。

オスカルが言葉に出して言いにくいことも、アンドレなら瞬時に察知してくれているんですよ、

どんなときにもね。まあ、だからこそ恋愛感情が育たないって、言えば言えるのかもしれないけどね。

傍から見たら、舞踏会に綺麗な男の子がふたり、踊りもしないで少しみんなから離れて、

すごく仲良さそうにクスクス笑いながら

なにかヒソヒソと冗談を言い合っているように見える。

ちょっと薔薇っぽいっていうか。目立つ存在だよね。

これも、全くの想像だけど、完全に成人してからはともかく、

ティーン・エージャーだった頃のふたりはどっちかというと、本当の男であるアンドレのほうが

繊細な顔をしていて柔和な笑みを絶やさない一方、

金髪で華やかなオスカルのほうが男顔で、きりっとしているんですよね。

ジェンダーの境目がよくわからない二人だったんですよね。多分。

そういう、ギャップがあるとさらに面白いね。見てる方はわかんなくなるから。

共感能力も強かったんじゃないかな、お互い。

男とか女とかそういうところで繋がっていなかったんじゃないかな、もともと。

ああ、昔見た『マイ・プライベート・アイダホ』の中の

まるでリバー・フェニックスとキアヌ・リーヴスのようだ。

オスカルにとってアンドレって想像以上に大事な存在なんですよ。

たましいの片割れっていうかね。

そういう深~いところで実は繋がっているような気がする。

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ベルばらってなにも考えないで読んでいると時間の流れも皆目分からないんだけど、

よく読むと本当はごく初期のティーンエージャーの頃の話から

いっきに三十代にまで飛んでいることがわかる。

黒い騎士事件とか、首飾り事件なんてだいたい同じ頃に起こっているんだね。

首飾り事件なんて、革命前夜の1785年の出来事よ。

もうすでにアラサーなんです。

お嬢様がレディ・オスカルになってフェルゼンとダンスするのも

衛兵隊に入るのもだいたいこの四年の間のことなのです。

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フェルゼンへの恋

そういうわけで、フェルゼンがフランスから離れてアメリカに戦争に行っていて不在の間は

曲がりなりにもオスカルとアンドレの間の均衡が保たれていたんだけれども、

フェルゼンがフランスに帰還するころから、二人の関係に亀裂が入るようになる。

オスカルは自分がフェルゼンに恋をしていることは、誰にも言わなかったけれど、

当然アンドレはそれに気が付いている。

そして、フェルゼンとオスカルが再会して、再びその恋の炎が燃え上がり、

自重できなくなるまで大きくなり、行動を移す。

つまり、レディ・オスカルの舞踏会のシーンです。

昔マンガ読んだとき、「だっせードレス!」と思っていて、

あんまり好きなシーンじゃなかったんですけどね。

今見ても、まあ、時代考証無視のドレスなんですがね。

前面はおとなし目に見えるんだけど、後ろがざっくり腰まで空いていますので

スタイルの良い方しか着れません。ボンドガールみたいなドレスだな。

なぜ、オスカルはこんなことをしたのか。

まあ、いろいろと考えられることはあるけど、

やっぱり彼女は女に戻りたい、女として男性に愛されたい、

という願望が心の奥底にあったんじゃないかな。

もし、万が一、フェルゼンと結婚できることになったとしたら、

彼女はフランスからスウェーデンに嫁ぐわけだから、

彼女の過去を知る人もいないわけだし、リセットできるじゃないですか。

今でいう大学デビューみたいなものかしら?

まあ、それはほとんどありえない切ない願望に過ぎないのだけど。

オスカルは自分が軍人でいることにだいぶ疲れていたのかもしれないです。

でも、ぶっちゃけたこと言っちゃうと、フェルゼンってオスカルの長い14年間ぐらいの

心の恋人だったわけだけど、実際に彼がフランスにとどまっている年月ってそんなにないのね。

アメリカに7年ほどいたし、あと自国に帰っていたりで実質4年ほどぐらいの付き合いじゃないのかな。

まあ、人の付き合い方は時間じゃないから一概にこうだ、とはいえないけど、

オスカルにとっててフェルゼンは、自分の理想や夢を重ねたようなそんな存在だったんですよ。

それに不在っていうのも、恋心を掻き立てる道具だしね。

たぶん、オスカルは自分の意志ではなく、父親の意志によって自分の

人格を否定されて育ったいわゆるAC(アダルトチャイルド)。

彼女は自分が男じゃないことに、いわれもないのに、罪悪感を抱いているんだね。

そんな彼女は遠い北欧の貴公子であるフェルゼンに思いをはせることで、

自分の女の部分を肯定できるし、そういうファンタジーを持っていないと生きていけない。

そんなトラウマがあるのだと思う。

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オスカルはアンドレの自分への恋ごころも知っていたけど、

わざと知らないふりを押し通す。

オスカルはアンドレを異性として見ることが出来ないんです。

そうやってオスカルが自分の恋に夢中で周りを見渡せる余裕がなかったとき、

アンドレは自分から離れて、なにやら秘密裡に行動している様子。

秘密裡の行動というのは、平民のための勉強会、ルソーの『社会契約論』などの

理念を平民たちにわかりやすく解説をしているもので、その勉強会に通っていたわけ。

アンドレは尋ねられたので悪ぶることなく、ある時、オスカルにもその勉強会に連れて行った。

別にアンドレはことさらに隠していたわけじゃなかった。

だけど、これが妙にオスカルの心を傷つけたんですねぇ。

改めて、自分とアンドレの間には越すに越されぬ身分の差があるということに気が付いてしまったから。

そして、実にあたりまえのことなんだけど、

アンドレにはアンドレなりの、自分とは違う行動理念があるということを。

今までは何となく、自分の欲するところはアンドレの欲するところなんだ、みたいに信じ込んでいる

みたいに思っていたけど、実は違うんだって。

(アニメのアンドレは、原作とは違って結構知的好奇心の強い人でよく勉強している)

フェルゼンとの恋が破局に終わった後、

オスカルは、はちゃめちゃなことをアンドレに言うんです。

「これから自分は、昔自分が男であったと信じていたころに帰る。

今よりも、もっともっと厳しい環境に入って、たとえ一兵卒として河を渡るぐらいの

覚悟で生きていきたい。 

そのためにまず、近衛隊をやめて、もっと実戦を経験できるフランス衛兵隊に入る。

これからは自分のことは自分ですべて管理したいから、

アンドレは自分の伴をしなくてよい。自分のやりたいようにせよ」と。

はぁ~?何をいってらっしゃるの、姫は?とうとう壊れたか…。

アンドレはオスカルが明らかにおかしいので、

動揺してしまいます。

だけどねぇ、これねぇ、私はオスカルの、この一見破天荒にしかみえない、

めちゃくちゃな心理、非常によくわかるんですよ。

私も孤独に苛まれて疑心暗鬼に襲われたこと、何度もありますから。

オスカルは心理的にアンドレに距離を置かれるのが本当は怖いんです。

ただでさえ、フェルゼンの恋に破れて心に痛手を受けているのに、

これ以上、アンドレからの拒絶を受けたら、彼女は二度と立ち上がれないことがわかっているんですよ。

あんなに気が合って、ともに切磋琢磨する学友のようで、また多少わがままなことをいっても

優しく話を聞いてくれる兄のような存在が自分から離れて行ってしまう…。

アンドレは別にオスカルみたいに、性を偽って生きているわけではないし、

自分をあきらめて他に好きな女の子と結婚したとしても、オスカルは文句も言えないのです。

だから、相手から切られるよりは自分からアンドレとの絆を切るしかない、と思ったんですね。

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そうやってオスカルはアンドレに向かって理不尽な宣言をして、寝室に入ろうとしたとき、

たとえディベートにおいて反論することはあったとしても、

彼女の感情を害することをおもむろには決して言わなかったアンドレがはっきりと反論するのです。

「オスカル、これだけは言わせてもらう。

赤く咲こうが白く咲こうがバラはバラだ。ライラックにはなれやしない!」

(ライラックってなんの比喩ですか? 男の象徴? 違うと思うけどな~)

それを聞いたオスカルは眉を逆立てて激高。

「アンドレ!それはどんなに頑張っても女は所詮女でしかないという意味か!? 答えろ!」

オスカルは思わずアンドレの横面を平手で張り飛ばします。

アンドレはね、オスカルのむちゃくちゃな言い訳を聞いて瞬間的に怒ったんですよね、たぶん。

怖いもの知らずなのもたいがいにしろ。お前、本当に手加減なしの大人の男の腕力を知っているのか―と。

そして、アンドレは問い掛けを言葉で返さず、オスカルの両手首をギュッと握りしめ、

抵抗しようとするその腕を体から大きく開かせてベッドに押し倒して、無理やりキスをして、

着ていたブラウスの襟をつかんで、それを肩から胸にかけて乱暴にビリビリッと引き裂くのです。

あわやというところで、オスカルの、自分が露出させてしまった

実は華奢な肩を震わせて泣いてしまったのを見て、正気に戻る。

(初めてみた彼女の、絹のような光沢をはなった肩先はさぞや魅力的だったでしょうねぇ~ 笑)

そして、アンドレは「もうこんなことは二度としない。神に誓う」と謝ります。

ベッドで泣いているオスカルに背を向けながらこう言います。

「バラがバラでしかないように、オスカルがオスカル以外になんかなれるはずない!

愛している、オスカル。いや、愛してしまったんだ。これ以上ないほど深く…」

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う~む、重たいですね~。

アンドレ、オスカルを無理やりでもいいから、自分のものにしてしまえばよかったかもしれないのに。

ある意味、そのほうがオスカルは自分の中の女性の部分が蘇生して楽になれたかもしれない。

しかし、それはまた別な考え方をすると諸刃の剣的な、非常に劇薬っぽい対処の仕方でもあって、

下手をしたら、オスカルは自分の女の部分(アニマ)と男の部分(アニムス)が統合できなくなって

おかしくなってしまうかも。

彼女は非常に生真面目で感受性が強い人ですから。

いくらアンドレとはいえ、男性の力による征服なんてやっぱり受け入れられないかもね。

アンドレはアンドレで、あんなふうに泣いちゃったら、可哀そうでそれ以上はできないです。

アンドレはかなり驚いたんじゃないかな。

オスカルは普段、すごく勇敢で、何者をも恐れないふうに見えるのに、

こんなふうに、他愛なく身を震わせて泣いてしまうもろい部分もあるんだってね。

やっぱり、こういうとっさの場面になってしまうと、

もうどうしたって当たり前の乙女の反応しかないんですよ。

余計に愛おしさがこみあげてきちゃいますでしょ?

思うにね、彼はもうとっくの昔に女を知っているわけ。多分、15、6ぐらいのときに

ジャルジェ将軍の差し金で、しかるべきところで筆おろしなんかをさせられていると思う。

今の時代から見れば、それは「ええ?」ってことなのかもしれないけど、

当時は大人になる男の通過儀礼のようなもの。そんなことは当たり前のことだし。

童貞のままで、自分の大事な娘を託すわけにはいかない、と思ってたんでしょう。

だからね、情欲を感じたら商売女で欲望を満たすことぐらい、彼にはキチとできていたけど、

女のオスカルにはふさわしくない話題だし、失礼だから、黙っていたにすぎないだけ。

だから、そこまでして自分の欲望を彼女に押し付けることはしなかったんだと思う。

なんといっても彼女はアンドレにとって掌中の珠だからね。

いくら愛しているといっても、そんな風に彼女を穢してしまうことはできなかったんです。

しかし、この出来事は双方にとって決して忘れられない出来事で、

特に次第次第にオスカルの心の奥深くに沈殿して増殖していくことになるんですけどね。

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な、長い!しかし、まだまだ続きます!笑


プルースト『失われた時を求めて』を全巻踏破! ②アルベルチーヌ その2 [シリーズで考える深い考察]

ふう~。

考えてみると、わたくしのブログってはちゃめちゃですね。

ただのじみ~な読書日記風なブログか、

と思えば、いきなりハンドメイド日記にはやがわり。

しかし、そのどちらも自分なんですよね。

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さて、今日はアルベルチーヌの続きですね。

そう、アルベルチーヌは主人公である猜疑心の強い主人公を残して、

奇妙な同棲生活に別れを告げるのです。

そこで、主人公はアルベルチーヌから別れいったことに、ほっと安堵をすると同時に、

とてつもない喪失感を覚えてしまう。

…って読んでいて、非常にイライラする箇所なんですよね。

この人は、いったい何を考えているのだろうかってね。

主人公は本当に自分本位な人です。

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要するに、2巻で突然「スワンの恋」って章がでてくるんですが、

これって、主人公が生まれる前の話で、

この小説はこの「スワンの恋」以外はすべて「私」の一人称で語られるのに、

この章だけ違うんですね。

この「スワンの恋」だけで、独立した一個の中篇小説ができるくらいです。

(実際、『スワンの恋』という映画もある)

実はこのスワンの恋は主人公とアルベルチーヌの恋愛の雛形になっているんですよね。

スワンと言う人は、ユダヤ系の株の仲買人の息子なのですが、

まあ、親がとってもリッチだったのと、彼自身が極めて眉目秀麗で、社交術にも長け、

かつ、芸術品の造詣にも深いディレッタントだったので、

社交界の寵児にまで上り詰めた人だったのです。

それなのに、どういうわけかすごく美しいけれど、

高級娼婦のオデット・ド・クレシーと結婚してしまうんです。

それこそ、社交界にとって彼の結婚は大スキャンダルでした。

そして、彼は社交界から追放されてしまうんです。

でも、スワンの恋の仕方っておかしいんですよ。

実は、スワンの女の好みってとっても庶民的だったんです。

こう、なんていうのかな、むっちりと肉感的な女、

作中の言葉を借りて言えば、「ばら色の肉体を持った女」が好きだったんですね。

つまり、オデットは美しいけれど、やせぎすで、

見てくれはよくて、アクセサリーとしてつれて歩くにはまことに結構な女だけれど、

こう男として女を感じたい部分には、

オデットはスワンに何の感慨も与えられなかったということなんでしょう。

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ところで、スワンにあこがれていた主人公は、スワンの真似をしてみたかったんじゃないかな。

オデットはスワンのことが好きで好きで、どうしても結婚してほしい人だったので、

あの手、この手でスワンを攻めていくのですが、

しかし、アルベルチーヌはそんなオデットとは違っていたのですね。

アルベルチーヌのほうが悲観的で、

オデットのほうが、アグレッシブでファイトのある女だったのでしょうか。

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アルベルチーヌはとても美しくて、利発で、そしてとても優しい。

しかし、なぜかとらえどころのない謎めいた一面があったのです。

あと、なにかこう全ての面で投げやりとでもいうか、あきらめていた様子が伺えるのですね。

結局、主人公がアルベルチーヌと別れることができなかったのは、

その謎を解き明かしたかったからなんだろうと思う。

ときどき、アルベルチーヌの放心した表情から、キラリっと目から火花が散ることがある。

いったいそれはなぜなのか。

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しかし、アルベルチーヌは決心をして主人公のもとから去っていってしまう。

フランソワーズから渡された手紙は、本当にすばらしい手紙で、

無駄なことは一切書いてないし、相手に恥をかかせるようなことも、

ましてや責めるようなことも書かれていない。

ただ、別れるときがきたようだ、と自分の意思をはっきりと書くのです。

それでいて、優しさが漂う、なんともいえない切なさが溢れた別れの手紙です。

わたくし、思わず、三四回読み直しましたね。

生きているうちにこんな手紙を書ける大人の人間になっていたいものだなぁと心のそこから思いました。

それなのに、たかだか二十歳かそこらの人間がこんな手紙を書けるものかしら?

ん~、やはりそこは小説なんだと思います。

しばし、呆然としたあと、主人公はなんとかアルベルチーヌを取り戻そうと

親友のサン・ルーを自分のかわりにアルベルチーヌが身を寄せているおばの里である、

トゥールまで行って説得してもらったのですが、アルベルチーヌは首を縦には振りませんでした。

何回か、二人の間には手紙のやりとりがあり、

主人公が脅したりすかしたりしてアルベルチーヌをどうにか取り戻そうとやっきになっているのに、

返事の手紙は一見、優しさや思いやりには溢れているけれど、どこか彼女の本心を隠した

お行儀のよい手紙しか来ませんでした。そこにはアルベルチーヌのどんな感情も見えないのです。

しかし、ほどなくして主人公のもとに、電報とアルベルチーヌからの手紙が同時に来ました。

電報はアルベルチーヌのおばからで、アルベルチーヌが馬に乗っていた際、事故で落馬し、

そのとき、木に全身を強くぶつけて死んでしまったという知らせでした。

そして、手紙はアルベルチーヌが死ぬ直前に書いた手紙で

「もういちど、あなたのところへ戻っていいでしょうか?」

と、今までの優しいながらもどこか冷めた調子の手紙から、打って変わって

思わず本心が吐露された手紙だったのです。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

わたくし、これは深読みかもしれませんが、

この手紙を書いたとき、アルベルチーヌはそうとうに追い詰められて孤独だったのだと思います。

誰にも頼れず、誰にも愛されていない。

そんな心の弱さからつい本音を主人公に漏らしてしまった。

けれども、主人公は本当にアルベルチーヌを愛しているわけではないので、

一旦は戻れるかもしれないけれど、いずれまた、捨てられるに違いない、と思ったのではないかなと。

そう悟ったとき、彼女は手紙を書いたことを後悔したのでしょう。

せめて、別れたあとくらいは、彼に軽蔑されることのないよう、

手紙の中だけでも矜持を保っていたいと願っていたのに…。

つまりは、彼女は自分の心の弱さに絶望してしまうのです。

で、事故に見せかけて、彼女は自殺してしまったような気がするんですねぇ。

あるいは、自分では気がつかなくても、無意識にそういった事故に向かわせていったのではないかと。

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主人公が疑っていたように、アルベルチーヌは同性愛に走っていたのかもしれません。

よせばいいのに、彼女が死んでしまった後でも、

主人公は彼女の素行調査をして、どんなに彼女が彼のしらないところで

放縦な性生活を送っていたかを知らされるのです。

でも、それは現代の同性愛者の愛とはちょっと立場が違うようにわたくしには思えるんですね。

この頃、ブルジョア階級の娘でも、持参金がなければ結婚できない、と書きました。

貴族の娘であっても、たとえば兄弟がいたりして、財産を分割すると貧乏になってしまうのが

わかっている場合には、結構平気で娘を修道院へ送り込んだりする親なんかはめずらしくなかったのです。

修道女になるか、あるいは、どこかお金持ちの家で住み込みで家庭教師をするか、

あるいは、彼女が美人なら高級娼婦となって、金持ちのパトロンにすがって生きるか、

まあ、そのぐらいしか道がないのですね。

それでは思い切って、本当の庶民、例えば、魚屋とか肉屋などの男と結婚する、というのなら

また話は別ですが、(そこには本当にお互いをいたわりあうような愛がなければならなのは

必然ですが)、アルベルチーヌのように、教育も教養もある女性が字も読めない男を好きになったりする

可能性は非常に少ないような気がします。

ま、何事も世の中には例外というものは常にありますが。

(ロレンスの『息子と恋人』はブルジョアの娘が、

粗野な、だけど非常に美男である炭鉱夫と結婚して、

価値観の違いからどんなに不幸な結婚生活をしたかを縷々と書き綴られています)

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つまりですね、主人公のような自分本位の男に囲われるような生活というのは、

男の性の玩具にされるということなのだと思います。

そこには、優しさもなく、ただただ、男の下劣な興味本位の性的満足しかないんだろう、と思いますね。

そういうのは、かなり心に堪えることなのだと思います。ささくれてくるんですよ。

まあこの頃の男性って結婚しても、そういう人は別段めずらしくもないんでしょうが、

それでも『結婚』して一家の主婦になるということは、その人の尊厳を守ってくれるものだと

思います。なんたって自分の親兄弟もいますし、世間体もありますし、

冷えた夫婦仲でも、お互いに恋人を作って、そ知らぬふりをして

暮らしていたりしますしね。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

疲れててくるんですよ。、

そういう男の愛人になるのは。

もともと男女の抱擁というのは、お互いの気持ちを優しくさせるというものだと思うんですよね。

愛し合っている二人ならば。

心を許しあっている仲ならば、お互いの肌のぬくもりもきっと心地よいでしょう。

しかし、アルベルチーヌは気が休まるときがない。

眠っているときしか、彼女には心の自由がない。

だから、彼女はすぐに眼を閉じて、没我の眠りの世界へと入っていってしまうのでしょう。

彼女は現実から逃げ出したいんですよ。

このどうにもならない現実から。

誰にも守られることのない自分。

それどころか、頼りにしたい恋人からは、いつも、猜疑心に満ちた目でじろじろ観察され、

尋問口調であれこれ言われたりする。

ほとほと愛想が尽きちゃったんでしょう。

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牧歌的な少年時代をつづった一巻には、突然、散歩道のモンジューヴァンで

音楽家であるヴァントイユの娘が女友達と抱き合っているのを

まだ幼い主人公が目撃してしまう、というびっくりな一節があるのですが、

アルベルチーヌはそのヴァントイユの娘の友達と親しかったのです。

たぶん、このふたりは、持参金がないもの同士だったんですね。

その当時は、別に結婚できないがために、その代償として同性愛に走る人は

結構いたわけですよ。

そういう人たちって、どこか寄る辺がなくてさびしいんですね。

だから、さびしいもの同志、寄り添って生活しているんです。

女同士であっても、肌を摺り寄せれば気分的に和むときもあっただろうと思うのです。

なにしろ、人間ですものね。

男の代償としての同姓愛だったような気がしてならないのですね。

アルベルチーヌが主人公に隠れて、主人公の知らない女と抱き合っていたのは、

主人公から執拗に責められて、心の均衡を取り戻したかったからじゃないのかしら?

子供が不安になって母親の懐に飛び込むように。

ながくなりますので、つづきはまた。


プルースト『失われた時を求めて』を全巻踏破! ②アルベルチーヌ その1 [シリーズで考える深い考察]

プルーストをお読みになった方なら、なぜ①概論のつぎに

いきなり②アルベルチーヌになるんだ!とお怒りになるかもしれません。

そうなんですねぇ~。順番どおりにいくと、作者の幼年時代・コンブレーから始めるのが

妥当なのかもしれませんが、

まあ、どうせわたくしのブログは、学術的には何の根拠もない、

自分が感じたままの感想というか要するにたわごとしか書いてないので、

気分的にアルベルチーヌなわけです。

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アルベルチーヌは、一読しただけでは、よくわからない謎のオンナです。

ざらっとあらすじをいいますと、

20世紀初頭のフランス

ブルジョアのいいところの坊ちゃんである主人公は

生来、脆弱なうまれだったんですが、

あるとき、生涯の宿阿ともいえる、喘息になってしまったんです。

パリは空気が悪いんで、すこしリゾート地で療養しましょう、ってことになるんですね。

主人公はこのとき、いくつぐらいなのかな、たぶん十代後半かもしれない。

わたくしたち、日本人はフランスの海岸でリゾート地というと、

すぐに、地中海のほう、プロヴァンスとか、カンヌとか、そういう太陽燦々と輝くところを

想像してしまうんだけど、

意外と当時はノルマンディーの海岸が高級リゾートだったんですね。

で、バルベックという海岸へいくんです。

バルベックは作者が作った架空の町ですが、

モデルはカブールというところです。

カブールと言ってもわからない人もいますから、

そう、のだめちゃんが千秋先輩と行ったサン・マロとか

観光地でめっちゃくちゃ有名なモンサンミッシェルのほう、といえば

わかるかしらね。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

そうです。

そこで、主人公はおばあさんと一緒にやってくるんですが、

何しろ知ってる人がいない。

なにかこう所在ない思いをするんですね。

しかし、時間がたつにつれ、いろいろと知人、友人になる人も多いんですが、

そんな中にアルベルチーヌも入っていたのでした。

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アルベルチーヌを見たのは、最初は五六人の少女の固まりとして

見かけたんです。

みな、それぞれにいいところのお嬢さんっぽい子達ばっかりで、

しかも、それぞれに美しい。

その中でも、ぬきんでて主人公の目に付いたのがアルベルチーヌだったというわけ。

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出会いは、こんな風にリゾート地での気安さといいましょうか、

どうせ一過性のもの、と言う具合に、多少の危険はあるけれど、それが逆にスリルがある。

アルベルチーヌは主人公に思わせぶりに

「明日はわたし、パリに帰るの。

よかったら、夜、わたしの部屋でふたりですごしてもいいのよ」とさそう。

主人公はたとえ喘息もちでも、据え膳食わぬは男の恥、とでもいわんばかりに

少女の部屋に勇んでゆくのですが、

なぜかコトに及ぼうとすると

アルベルチーヌに「何するの! 気安く触らないでよ、わたしに近寄らないで!」

と拒絶。

おとなしく、オハナシだけをするために読んだのかよ~。紛らわしいヤツ、

けったくそわり~、カマトトぶりやがってよ。

で主人公はげんなりして、それっきりアルベルチーヌのことは忘れてしまうのです

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

時は過ぎ、主人公も悪所通いも板についてきた頃、

ある日突然、アルベルチーヌは何の前触れもなく、主人公の家にやって来る。

そして、以前はあんなに抵抗したのに、

今度はやすやすと、主人公に抱かれてしまうのでした。

主人公は、そのときはアルベルチーヌの女性としての肉体にだけ

興味があったので、モノにしてしまって飽きてしまったら、いずれは捨てようと思っていたのでした。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

20世紀初頭のフランスのブルジョアの階級の女の子ってみんなこんな風に発展家さんばっかりなの?

とちょっと読んでいてびっくりしませんか?

わたくしはびっくりしました。

貴族階級なら、わりと退廃的な風はあるから、

表面はしとやかで貞淑な風を装っていれば、

つまり、世間に知れることがなければ、かなり大胆なことはやってしまうかもしれませんが、

ブルジョア階級というのは、主人公の母親や祖母をみている限りでは

そうとうモラルが厳しい感じがします。

主人公の母親なんかは自分の姪がふだん、ナチュラルメークでいかにも

化粧をしてないように巧妙にお化粧してたのに、

ある日、どういうわけか化粧しているのがばれてしまったんですよ。

「まあ、化粧なんかしている人なんかとおつきあいできませんわ!」で

絶交しちゃうんですよ。

だから、アルベルチーヌのやっていることは、ブルジョアの世界では絶対に

大目に見られるようなことではなかったはず。

しかし、それなのにアルベルチーヌは、主人公と同棲生活をしちゃうんですよね。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

これ、どういうことかとわたくしなりに考えてみたんですが、

アルベルチーヌはブルジョア階級に属しているとはいえ、

実の両親は死んでしまって、しかも両親は財産を残してくれなかった娘なんです。

それで、高級官僚のおばさんのところへ引き取られて育てられていた、というわけです。

おばさんは、一応アルベルチーヌは姪ですので、女学校ぐらいは行かせて教育は

つけてやってはいますが、基本的に彼女は、お情けでおばさんの家においてもらっている身、

肩身がせまいのです。

しかも、当時は結婚に際しては、持参金というものがなければ成立しませんでした。

アルベルチーヌは自身の財産がないわけですから、

仲良くしている友人の母親から

「かわいそうに、アルベルチーヌはいくらきれいでも、これでは絶対にお嫁にいけないわね」

と陰口をたたかれる存在だったんです。

ある意味、美しくて教養があるアルベルチーヌみたいな、こんな子は

高級娼婦予備軍なのかもしれないです。

というか、主人公はすでにアルベルチーヌをそういった高級娼婦と同じ類の女と

すでにジャンル分けしているような気がしますね。

だから、美しい彼女をまるで着せ替え人形のように、次々とフォルトニーみたいな

高級ブランドのお店から特注させた衣装や靴をいくつもいくつも与えるんです。

アルベルチーヌは、自分には絶対に与えられることはなかっただろうと

渇望していたこれらの高級品には、非常に目利きなんです。

これはプルーストの解説本を書いている海野弘さんがおっしゃっていたことだけれど、

「アルベルチーヌはある意味、同時代に生きたシャネルを彷彿とさせるところがある。

貴婦人は潤沢にお金があるので、ほしいものはすぐに手が入るため、それほど

モノに対して執着がないが、彼女らはそれらを望んでも与えられないため、

却ってそれらのことを貴婦人以上に知悉しており、見る目がある」と。

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ですから、主人公も気安くアルベルチーヌを妾のように囲ってしまうんです。

決して、将来結婚しよう、とかそんなことを考えていない。

主人公は、アルベルチーヌの美しさ、聡明さ、物事に対するセンスのよさ、などを

気に入っていたのですね。

だけど、それも一過性のもの。

いつかは、飽きれば彼女を捨てよう。そればかり、考えていたのでした。

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主人公は複雑な性格の人でして、

この人は作家を目指しているんですね。

そして、すごく多情なんです。自分が誠実な夫になれないのを自覚していおり、

かつまた、誠実な夫という枠に縛られるのがイヤなんです。

わたくしが思うに、彼は心の奥深くでは彼女に「愛」を感じているのだけれど、

それを自分では「執着」だと理解するのです。

そして、毎日二人でいることに耐えられなくなる。

彼女には飽きた。非日常性をなくした関係など倦怠以外の何ものでもない、

早く彼女を捨ててしまおう。

毎日そればかりを考えるようになる。

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しかし、主人公にはアルベルチーヌをどうしても手放せない理由があったのです。

それは、彼女はどうも主人公には隠している「秘密」があると。

それは、たぶん、彼女が同性愛者なのではないか、という疑問です。

主人公にとっては、解き明かされない謎ほどひきつけられるものはないのです。

彼女がどんな所業をしているのか、暴いてみせるまでは絶対に離さない、と思うのですね。

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そこから、ふたりの心理戦が始まる。

普段、主人公は日中、執筆の仕事をしているので、

アルベルチーヌにふらふらしていてもらっても困るので

彼女の友人のアンドレ(女の子にもつける名前のようです)にきてもらって、

日中は彼女とどこか、公園にいったり、ドライブしたりして過ごさせている。

帰ってくると、一日どうやって過ごしたのかイチイチ報告させるのですね。 

そして、ちょっとした話の食い違いがあるとそれを執拗に尋ねて、

本当にあったことを白状させようとする。

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ある日、ルバッタというお店のアイスクリームが食べたい、とアルベルチーヌがいうと、

主人公は「ルバッタ」とわざわざ店を指名するのは、そこはかつて彼女とその同性愛者の

恋人と一緒に食べた店に違いない、と腹の中で考えていたりするのです。

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もう、一時が万事、そんなふうで、

ある日、執拗に尋問していた主人公に耐えかねて

アルベルチーヌは激怒します。

そうすると、主人公はネチネチと「じゃあ、分かれよう。ボクたちはその日が来たんだ。

分かれたら、絶対にお互いに顔を二度と見ることがないように、ああして、こうして」

みたいに、心にもないことを言ってアルベルチーヌを苛め抜きます。

とうとう、アルベルチーヌは自分が悪かったと誤り、その晩は和解したように見えたのですが…

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しかし、その事件があってしばらくした朝、

主人公は決して、アルベルチーヌは自分から別れるとはいわないだろう、

そうすれば今こそ、自分から別れを告げよう、と思うのです。

そして、おきぬけのお茶を部屋まで運んできた女中のフランソワーズに

アルベルチーヌを自分の部屋にくるように呼んできてもらおうと思ったそのとき

ふしだら女とアルベルチーヌを嫌いぬいていたフランスワーズにこう言い渡されるのです。

「アルベルチーヌさんは、これを坊ちゃんに、と私に手紙を預けて、

ここをお立ちになりました」

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あまりに長いですね。つづきます。


プルースト『失われた時を求めて』を全巻踏破! ①概論 [シリーズで考える深い考察]

とうとう全巻読了しました!

20世紀フランス文学の金字塔とも称される

マルセル・プルーストの『失われた時を求めて』

はぁ~、一言でいいますと、「長かった!」です。

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思えば、プルーストのぷの字も知らない20歳もそこそこの頃、

映画館で『スワンの恋』って言うのを見たんです。

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この映画が実に良かった。

小さい頃から、着せ替え人形で遊ぶのがすき、

お姫様が好き、ドレスが好き、で育った人間ですので、

本場の絹の緞子かなんかで細かな仕立てがしてある、

クリノリンドレスやバッスルスタイルのディドレスやソワレ(夜会服)など

豪華絢爛の世界を目の当たりにすると、くらくらと目がくらんでしまったんです。

そして…主人公シャルル・スワンを演じた若いジェレミー・アイアンズ。

今は渋いオジサンになっていますが、本当にかっこよかった。

この映画が引き金になって、

非常に難解といわれるプルーストをいつか読もう、と若い私は心に決めたのでした。

それから、いったい何十年かかったのでしょう?

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しかし、この小説はいわゆるフランス文学、ひいては美術音楽の集大成でもあるので、

な~んにも知識がないと本当に面白くないだろうことは予感していました。

まぁ、音楽や絵画はわたくしの得意な領域なので、そこはよいとしても、

フランス文学はまったくといっていいほど、手をつけていませんでした。

でも、いきなりフランス文学はないだろう、と思い直し、

まずはやはりちょっとスノッブな三島由紀夫から。

スノブといっても三島の文学は本物ですので、かなり彼の美意識というものを

理解した上で、バルザック、フローベール、モーパッサン、ゾラ、メリメ、コレット、ジイド、などなど

読めるだけ、読みました。予備知識として。

さすがに、あんまり古いものはお手上げなので読みはしませんでしたけど。

(本当は読めるのだったら、読んだほうが良かった)

プルーストを読んでいて失敗したな、と思ったのがわたくし、まったくユゴーは読んでませんで

劇中の登場人物にユゴーの批判をながながとさせている箇所があって、

そこはまったく理解できませんでしたので、ちょっと残念です。

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とまれ、本題。

あらすじをいいますと、

っていうか、これってあらすじがあるようでないような感じなんですけどね、

19世紀も終わりごろ、作者の分身のような主人公の幼年時代から物語が始まるのです。

主人公の本宅はパリにあるらしいのですが、父親の休暇となるとその実家となる

コンブレーですごすことになるのです。

コンブレーはなんってことのない田舎なのですが、

主人公の家を起点として二つの散歩道がありました。

ひとつは「スワン家のほう」、メゼグリーズを通って、スワンの家のあるタンソンヴィルへの道。

もう一方は、「ゲルマントのほう」

こちらは、パリの中でも大貴族の中の大貴族であるゲルマント家の本拠地というか、領地があるところでしてた。

ゲルマントのほうは、スワンの家のほうへいくよりちょっと道のりが遠く、

スワンの家に行くようにちょいちょい行けないのが難点です。

ですが、川伝いにいく散歩道はサンザシの花が咲き誇るスワンの家とはまた違った趣がありました。

そして、町の中心にあるちっぽけな教会にはゲルマント家の先祖である、ジュヌビエーヴ・ド・ブラバンが

ステンドガラスにはめ込まれていました。

感受性が強く、想像癖の強い少年の主人公は、このステンドグラスを見て、

ゲルマント家、そして、現存する当代のゲルマント公爵夫人にあこがれるのです。

この箇所はちょっと日本人には難しいところなんですが、

たとえば日本でいえば、平安の絶世の美人といえば「かぐや姫」などを思い出すでしょう?

かぐや姫は、結局帝の求愛を退けて月に戻ってしまったけど、

実は別の異聞というのがあって、それは表向きの話であって、がぐや姫はこっそりと帝と結ばれて

その子孫である貴族の末裔が現存する「○○家」である、っていわれるのを聞くのと同じ感覚かな、と思います。

そのとき、日本でいえば、江戸から明治に入る頃ですが、

そういわれたとしたら、なんか「あこがれ」みたないなものが胸に生じたりする気持ち、わかりますよね。

まあ、そういったことことが主人公に起こるのです。

とにかく、長いのではしょっていいますと、

主人公はこの「あこがれ」という一種の好奇心が芽生え、

その好奇心の命ずるままに、貴族のサロンに行きたい、と思えば、

なんとかして、そのコネを使って、とうとう当代一流のサロンへも出入りし、

当時の高級リゾートだったノルマンディの海岸へ行ったり、

なかなか華やかな青春時代をすごすのですが、

やがて、自身の宿阿ともいえる喘息が何度も発症し、

だいたい第一次世界大戦とともにサナトリウムで療養することを余技なくされるわけです。

若いときから、芸術にあこがれ、将来は作家になる、と決めていた主人公ですが、

年齢は重ねていたとはいえ、まともな作品はなにひとつ残せないでいました。

そうした、自分からは無為にすごしてしまった時代を取り返すべく、自分の物語を書こう、

と決心したところで話は終わるのです。

(この話は循環しているので、冒頭に戻るのですね)

簡単にいってしまえば、別にドラマティックな大恋愛とか大悲恋とか、

そういうものが起こるわけではありません。

しかし、どことなく『源氏物語』を想起させるところもある、そんな物語です。

この話はもともと当時バルザックやユゴーと匹敵するような作家「サント・ブーヴに対抗する」批判文を

書くはずだったのが、いつのまにか小説になってしまっていた、ということです。

今日でも、バルザックやユゴーなどは名も知られていて、小説も読まれていますし、

作品が映画になったり、ミュージカルになったりしてますが、サント・ブーヴなんて名前は、

この作品を読むまで知りませんでした。

そして、サント・ブーヴの主張のどこにプルーストは反感を覚えたのかまでは

今のわたくしには論じる資格はありません。

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そのほか、スノッブと貴族の問題、

貴族とブルジョアの問題、

ユダヤ人と貴族の問題、

同性愛の問題、

などなど、いろいろと問題提起がその物語の中にされているのですが、

なにせ集英社の文庫で13巻のなが~~~い小説なので、

一口にどうこう、といえる小説ではありません。

ので、せっかく読破したことでもあるし、

これから、何回かにわたって自分なりの思いをつづっていきたいと思います。

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プルーストはカトリックの医師である父親とユダヤ人の母親との間に生まれた、

ユダヤの血を引いた人間です。そして、彼は完全な同性愛者でした。

しかし、小説の主人公は、両親ともカトリックの家庭に育ったことになっていますし、

そうとう好色な人間ですが、同性愛者ではありません。

つまり、これはプルーストの自伝に見せかけた全くの創作です。

しかし、主人公の周りの人間がユダヤ人であったり、

同性愛者であったりする設定は、

主人公も自身の分身であるなら、

登場人物も自身の分身であるわけですね。

そうやって、単なる自伝ではなく、

本当の心の真実を、この小説を通して描いているのだ、と思います。


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